六波羅蜜を経営で実践。稲盛和夫氏の教えをわかりやすく解説。

六波羅蜜を経営で実践。稲盛和夫氏の教えをわかりやすく解説。



清水直樹
六波羅蜜とは仏教用語ですが、経営者にとっても自身と会社を成長させるための大切な考え方が含まれています。そこで今日は六波羅蜜を経営に活かす方法について見ていきます。
動画でも解説しています。

 

 

六波羅蜜の読み方と意味とは?

「六波羅蜜(ろくはらみつ)」とは仏教用語で、この世に生かされたまま仏様の境涯に至るための、6つの修行や善行のことを指します。

「波羅蜜(はらみつ)」という言葉は、サンスクリット語の「完成、極致」を意味する「パーラミター」を語源としています。つまり、六波羅蜜という修行・善行を繰り返すことで、人間としての最高の極致、境涯に至ることができるというわけです。

今回は、この六波羅蜜という考え方を経営に生かすことで、経営者としての人格が高まっていき、結果として会社も人生も良くなるということについて解説していきます。

稲盛和夫氏と六波羅蜜

稲盛和夫氏は晩年、仏門に入られたことをご存知の方も多いと思いますが、稲盛氏は「人生の目的とは何か」ということについて、「心を高めることである」というふうにおっしゃっています。心を高めるとは、要するに人格を高める、人間性を高めるということです。

そして、心を高めるために何をすればいいのかということで、稲盛氏がさまざまなところで語っていらっしゃるのが、この六波羅蜜という修行だったわけです。

稲盛氏はさらに「六波羅蜜」を「六つの精進」とも表現し、「人生や仕事において、重要となる実践項目をまとめあげたもの」と意味付け、「これを毎日連綿と実践し続けていくことで、やがてすばらしい人生が開けていく」とも述べています。

マイケル・ガーバー氏と六波羅蜜

また、私の師匠でもあり、世界ナンバーワンの中小企業のアドバイザーとして知られるマイケルE.ガーバー氏も、さまざまな宗教観を経営の哲学に取り入れていく中で、東洋思想、そして六波羅蜜に近い考え方について言及しています。

それでは、6つの波羅蜜について、稲盛氏の言葉を引きながら解説していきます。正確に仏教に沿った内容というよりも、あくまでも経営者向けに日々意識していただきたいことを中心に述べています。

 

六波羅蜜を分かりやすく解説

六波羅蜜の6つの修行や善行について見ていきます。

布施(ふせ)

「自分がいまあることに感謝をし、他に善かれかしと願、人様のために何かをして差し上げることです。その思いやりの心、優しい心を持って世のため、人のために尽くすということ、施しをするということです。」

これは言葉の通りで分かりやすいと思うのですが、見返りを求めない施しのことです。

もちろん、これはお金や物を施すといった物質的なものだけではなく、例えば知恵を授けたり、人に対して明るく笑顔で接する、おもてなしをするといったことも含まれています。

持戒(じかい)

「人間としてしてはならないことを定めた戒めをひたすらに守っていくということです。人間として何が正しいのかを問い、その正しいことを貫き、そしてしてはならないことはしないということであります。」

自分自身の欲望や欲求に振り回されるのではなく、自らを戒める修行のことです。

忍辱(にんにく)

「恥を忍びなさいということ、苦しいことや辛いことも耐え忍びなさいということであります。人生は波瀾万丈であり、いまは幸せに思えても、いつ何どき苦難が押し寄せてくるか分かりません。その厳しい試練を耐え忍んでいくことが大切だということを教えていただいているのです。」

どんな困難に直面しても耐え忍んで生きていく心のことです。ちなみにこれは、食べ物のニンニクの語源だとも言われています。

精進(しょうじん)

「人は生きていくためには働かなければなりません。働くということは厳然たる人生の鉄則であり、お釈迦様は、ただ一所懸命に誰にも負けない努力で働きなさいとおっしゃっています。」

不断の努力という意味で、これは日本人には非常になじみが深い考え方だと思います。

禅定(ぜんじょう)

「心を静かにすることです。荒々しい心のままでは心を高めることはできません。多忙な毎日を送る中でも心を静めることに努めなさいとお釈迦様は説いておられます。」

内省という言葉に言い換えることもできますが、第三者の視点から自分自身を見つめることです。仏教の場合、禅定をするために座禅を組むわけですが、1日1回でもいいから、自分自身を見つめ直して反省する時間を持つということがこの禅定ということになります。

智慧(ちえ)

「ここまでの5つの修行に日々懸命に努めていくことで悟りの境地、つまり偉大な仏の智慧に至ることができると言われております。」

真理にたどり着く、物事の真理を悟ることで、これが六波羅蜜の最終目標となります。

ここの段階に向けて修行をしていくという流れになります。

 

六波羅蜜を経営で実践するには?

稲盛和夫氏は、この六波羅蜜を日々の仕事や生活の中で実践することで、人生の目的である心を高めることにつながっていくという話をしています。ここからは具体的に、経営者として六波羅蜜を日々の中に生かすにはどうすればいいのかという話をしていきます。

ここまで述べた通り、六波羅蜜は布施から始まって智慧に至るという流れになっているのですが、経営の中で実践するためにはゴールから考えた方が分かりやすくなりますので、あえて順序を逆にして見ていきます。



⑥智慧=経営者の最終到達地点

先ほど、智慧というのは真理を悟ることだと説明しましたが、これを経営に置き換えると、経営者として真理を悟ることで、その人の持つ創造性や直感が非常に閃きやすくなるわけです。ベテランの経営者ほど、想像力や直感が非常に優れています。それは、その人がこれまでにやってきた仕事や地道な努力、つまり六波羅蜜を続けてきた結果なのです。

初心者の心が創造性を生み出す

マイケルE.ガーバー氏は講座をやる際に、冒頭で「真っ白な紙と初心者の心で取り組んでください」と言っています。彼は「起業家は創造する人である」と考えているのです。

創造力を発揮するには、自分の心を初心者の心、つまり、十分にオープンで受け入れる準備ができている状態にするということが非常に大切なわけです。スティーブ・ジョブズが大きな影響を受けた本として知られる、禅のバイブル『zen mind beginner’s mind(禅へのいざない)』ではこれを「ビギナーズ・マインド」と呼んでいます。

人というものは、経験を積めば積むほど自分の凝り固まった価値観や考え方で物事を判断しがちです、しかし、本当に悟りに至った起業家というのは、常に心がオープンな状態にいるわけです。

⑤禅定=自分を見つめる時間を取る

しかし、やはり経験を持った経営者であるほど初心者の心で取り組むことは難しくなります。そのために必要なのが、5つ目の修行である禅定というわけです。稲盛氏は「反省のある毎日を送る」と表現していますが、冷静に第三者の視点から自分自身を見つめるということです。

社長業をやっていると、どうしても心が乱雑になってしまいます。やるべきことは山積みで、あちこちからコンタクトがあり、常に追い立てられた状態でいると、創造力を発揮できるようにはなれません。

起業家の時間を取る

マイケルガーバー氏も「1日1時間、『起業家の時間』として創造力を働かせる時間を取りなさい」と言っています。「ビジネスを変革させるためには、心をきれいな状態にする必要があり、乱雑な心の状態では、起業家やマネージャーは人格にアクセスできない」というわけです。

ただし、稲盛氏は「感性的な悩みをしない」という注意も提起しています。人生では誰でも失敗をしますし、間違いを起こします。しかし、そうした過失を繰り返しながら人は成長していくわけですから、失敗を悔やみ続ける必要はありません。済んだことに対していつまでも悩み、心労を重ねるのではなく、新たな行動に移ることで、すばらしい人生を切り拓いていけるわけです。

④精進=仕事に打ち込む

そして、禅定の前段階として精進があります。稲盛氏は「誰にも負けない努力をする」として、「より充実した人生を生きていこうとするならば、人一倍努力を払い、仕事に一生懸命打ち込まなければなりません。仕事に惚れ込み、夢中になり、人並み以上の努力をする。この誰にも負けない努力がすばらしい結果をもたらしてくれるのです」と述べています。

たゆまぬ仕組みの改善を続ける

「改善の連続が革新を生む」ということで、私たちも日頃から会社の仕組みづくりをご支援しているのですが、仕組みには常に改善が必要なわけです。その改善を続けていくことが、いずれは革新を生み出すということなのです。

経営においては、どうしても目立つことや派手なことが世間から注目されがちです。しかし、実際にやっていることは非常に地味な仕事の積み重ねであるわけです。やはりそれを抜きにしては最終的な目標に到達することはできないのです。

③忍辱=苦労は経営者の日常

さらにその前段階として忍辱があります。これは耐え忍ぶということですが、経営者であれば、常に耐え忍ぶということを経験されていると思います。ここから逃げられないのが経営者なわけです。普通の従業員であれば転職すればいいのですが、経営者の場合は自分でつくった会社から逃げることはできません。

これはスポーツをやったことがある方は分かると思うのですが、やはりある程度つらい思いをしないと筋肉もつかないし、上手くもならないわけです。経営者として成長するのもそれと同じで、つらい思いに耐えて経営をし続けること以外、皆さんが望むものを手に入れる方法はないのです。

②持戒=我欲を戒める

忍辱の前段階にあるのが持戒、自らを戒めるということです。先ほどの禅定の部分にも関わるのですが、自分の小さなエゴや我欲を戒めていくということです。稲盛氏は「利他的な自分と利己的な自分というものがあって、それを常に戦わせて、利他の方を勝たせるように修行していかないといけない」というふうにおっしゃっています。

我欲で経営をしない

六波羅蜜(布施と持戒)

 

マイケル・ガーバー氏は起業家の夢を2種類に分けています。1つ目がパーソナル・ドリームという、起業家の個人的な夢です。例えばもっと売上や収入が欲しい、もっと良い車に乗りたい、もっと良いオフィスに引っ越したいという個人的な夢のことを指しています。そして、経営者としての個人的な夢を追求することは、会社を運営したり経営する目的にはならないと言っているわけです。

このような個人的な夢、つまり我欲に追われている人というのは、経営判断をする時に、「どっちの方が儲かるかな」という観点で判断をしてしまうわけです。しかし、そうしてしまうと会社というのは長期的に見たら上手くいかないわけで、この辺りは稲盛氏も同じことをおっしゃっています。

ですから、常にパーソナル・ドリーム、個人的な夢というものを戒めて経営をしていかないといけないわけです。

①布施=他の人のための夢を見る

布施というのは、無償の施しのことです。稲盛氏の考え方では、経営者は経営をしている時点で布施を行っているということになります。社員を雇って給料を払い、彼らと彼らの家族の生活を支えているというだけでも、布施をしているということになるわけです。

先ほど、マイケル・ガーバー氏の話として起業家の夢を2種類に分けていると言いましたが、2つ目の夢がインパーソナル・ドリームというもので、これが経営者には必要だと言っています。これは経営者の個人的な夢ではなく、顧客の夢ということです。自分の夢ではなく、顧客の夢を追求することこそが起業家や経営者の役割ということをずっと言ってきているわけです。

顧客の夢を追求することこそ会社が存在する理由

起業家が会社をつくって経営する目的は、顧客の夢を追求すること以外にはなく、顧客の夢を実現するために会社や組織というものがあるという考え方です。ですから、自分たちの顧客の夢は一体何なのかを理解することが大事ですし、それを実現するためにどのような仕組みで会社を運営していかないといけないかということを考える必要があるのです。

稲盛氏はこれをもっと広い意味で捉え「善行、利他行を積む」と言っています。世の中には因果応報の法則があり、善きことを思い、善きことを実行すれば、運命を善き方向へ変えることができるというわけです。当然、仕事も良い方向へ進めていくことができます。

「善きこと」とは、「人に優しくあれ、正直であれ、誠実であれ、謙虚であれ」という、人として最も基本的な価値観であり、「情けは人のためならず」と言われているように、善きことを積み重ねていくことで、私たちの人生もよりよいものとなっていくと、稲盛氏は説いています。

最高の経営者に至る道

六波羅蜜で経営者の修行をする

まず顧客の夢を実現する仕組み、これが「布施」の段階になります。顧客の夢は何なのか、そこに貢献するにはどのような仕組みをつくらなくてはいけないのかということを考えていきます。



次に、小さなエゴに惑わされない判断をするために「持戒」をします。そして「忍辱」として、苦難に耐えていきます。成長は苦難を乗り越えた先にしかないからです。

そして、どんな仕組みにも改善の余地があるという気持ちで日々の仕事に取り組むこと、これが「精進」となります。さらには「禅定」ということで、1日1時間は起業家の時間を持つようにしましょう。

六波羅蜜を経営の中で実践し、積み重ねることによって「智慧」に至り、最高の経営者となれることを目指していきましょう。

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