会社のナンバー2とは、会社の中枢で社長とともに経営の重要な役割を担う人材のことを指します。多くの社長は、会社のナンバー2が欲しい、自分の右腕を創りたいと考えています。そこでこの記事では、会社のナンバー2(社長の右腕)をテーマに、
- ナンバー2に向いている人
- ナンバー2選び&育成のステップ
- ナンバー2の役割、仕事
などについてご紹介していきます。
ナンバー2は要か不要か?
この記事はナンバー2をテーマにしていますが、世の中にはナンバー2なんて要らない、という不要論の人もいますね。そういう社長はだいたい
- 自分が万能だと思っているか
- 過去に裏切られた経験があり人を信用できないか
のどちらかに当てはまります。
ただ、歴史を振り返ってみても、偉大な企業や組織をリードしてきたリーダーには右腕が存在します。また、米国のスタートアップ企業の調査でも、一人で起業するよりも共同創業者がいたほうが成功率が高いというデータが出ています。
本当に優れた経営者は、自分は万能ではないことを知っています。だから自分に足りないことを自覚し、それを助けてくれる人を身近に置こうとするのです。
経営全般を担ったナンバー2「藤沢武夫氏」
たとえば、本田宗一郎氏に藤沢武夫氏は非常に有名なコンビです。技術屋のオヤジだった本田宗一郎氏はお金の面倒が苦手で、藤沢氏がそれを助けました。本田氏は、藤沢氏に実印も預けて全て任せていたと言われています。
ソニーを救ったナンバー2「盛田昭夫氏」
また井深大氏と盛田昭夫氏も同じような関係で有名です。盛田氏の実家は家業を営んでおり、昭夫氏はそれを継ぐ予定でしたが、井深氏の必死の説得によりソニーに▶したとされています。その後、盛田家は創業当初の資金面を支援し、ソニーの大株主になりました。
三国志時代最強のナンバー2「諸葛孔明」
さらに歴史を振り返れば、三国志時代の諸葛孔明は劉備を助け、蜀を三国の一つにまで拡大させました。
ナンバー2の罠(デメリット)
今見たように、ナンバー2の存在は会社の成長に大きく貢献してくれる可能性もある一方、私たちが「ナンバー2の罠」と呼んでいる落とし穴もあります。ナンバー2のワナとは、以下のようなものです。
ナンバー2に依存している職人型ビジネスになってしまう。
職人型ビジネスとは、特定個人の職人技に会社の運営が依存してしまっているビジネスのことを指します。ナンバー2が活躍している組織では、確かに社長の仕事は楽になるかも知れません。しかし、それは、会社の運営が社長に依存するかナンバー2に依存ずるかだけの違いで、職人型ビジネスであることには変わりがありません。ナンバー2が辞めてしまったり、何かしらの原因で戦線離脱してしまえば、ゼロかマイナスの状態に逆戻りしてしまいます。
ナンバー2と社長からの社員へのダブル指令。
一人の社員には一人の上司、というのが組織作りの大原則です。しかし、ナンバー2がいる組織では、社長とナンバー2の二人が実質上の上司、という状態になりがちです。この時の問題は、両者からの指示が時に矛盾するということです。これでは社員は混乱してしまいます。
偽・委譲型社長になりがち
“偽・委譲型”社長の口癖は、“ナンバー2に任せてるから、俺は何もやらなくていい”、“あいつがいるから俺は仕組み化できている”というものです。これは“たまたま”社長の意向に合う人が社内にいる場合に良く起こりがちです。実質、委譲しているのではなく、放任しているだけなので、最もトラブルに陥りやすい状態と言えます。
先にあげた例の通り、良い会社を創ろうと思ったら、ナンバー2の存在は非常に大事です。しかし、中には上記のような罠が原因で、人知れず袂を分かつ事例も多くなります。そうならないためにもぜひ以下からの内容を参考にされてください。
ナンバー2の採用と育成のステップ
では、実際にナンバー2を採用する、または育成していくステップをご紹介していきましょう。
1.社長が自分の弱みや癖を自覚する
私たちのビジネスの師匠でもあるマイケルE.ガーバー氏(「はじめの一歩を踏み出そう」著者)は次のように語っています。
あなたのリーダーとしての能力は、あなたがすべてのことについて良く知っているかどうかによって決まるものではない。それは、あなたが自分の強さや弱さについて、いかにオープンであるか、いかに正直であるかによって、決まるものである。
冒頭でも書きましたが、すべての人は万能ではありません。まずそのことを自覚することがリーダーとして大切なのです。
古いタイプの会社では、社長がボスであり、家長であり、最も力を持っている存在としてみなされています。そのような会社では社長は社員にスキや弱みを見せることをしないために、あらゆる業務や意思決定が社長に依存してしまうのです。結果としてそのような会社は、社長の体力や感性の衰えとともに、会社も衰退していきます。
一方、新しいタイプの会社では、社長が自分は万能ではないことを知っており、各メンバーがお互いを補完しあう関係性を作ります。そうなると自律的に動くチームが出来るようになり、社長が離れても大丈夫になります。
ですから強い組織を作ろうと思ったら、社長が自分に足りないことを自覚し、それを隠そうとしないことです。社員はそのような社長の姿を人間的であるとみなし、信頼感のあるリーダーだとみるようになります。これをトランスペアレント・リーダー(透明性のあるリーダー)と言ったりします。
社長の診断をしよう
より具体的には、「社長の思考の癖」と「社長の能力」を振り返ってみましょう。思考の癖とは、たとえば夢見がちだとか、逆に細かいことを気にしすぎだとかそういった考え方の癖です。能力はたとえば数字が苦手とか、ITが苦手とかいったことです。
なのでここでは自分にどんな思考の癖があるのか、また、理想の会社を創るために、どんな能力が足りてないのかを自覚しておくことが大切です。
「仕組み経営」でもリーダーが自分の強みと弱みを診断できるツールを用意していますが、以下のような公開ツールを使ってもいいでしょう。
2.自社の理念(ミッション、ビジョン、バリュー)を明確化しよう
ナンバー2を採用したり、育成したりしようと思ったら、次の事実を胸に刻んでおくことが大切です。それは、
ナンバー2の優秀さはあなたの夢の大きさに依存する
ということです。
藤沢武夫氏も本田宗一郎氏の夢が大きかったからこそ、そこで自分の能力を発揮したいと思ったのです。
劉備が三顧の礼で諸葛孔明を招いた故事は有名です。これも劉備が漢王朝の復興という当時としては大それた夢を持っていたからこそ、孔明も夢に賭けたのです。
ナンバー2はあなたの”お手伝いさん”ではない
もうひとつ重要な事実があります。それは、
ナンバー2はあなたの夢実現を手助けする存在ではない
ということです。これは一見理解しにくいかも知れません。
ナンバー2が欲しい、という社長は、自分がやりたくない面倒な仕事をやってくれる人が欲しい、と考えていると思います。しかし、ナンバー2はあなたの”お手伝いさん”ではありません。
優秀な人ほど自分の夢を持っています。彼らはあなたの会社を手伝うことで自分自身の夢を実現できるからあなたのことを手伝うのです。このことを勘違いしていると、小物しかあなたの元にはやってきません。
あなたが価値ある仕事をしていなければ、価値ある人間にそれをやらせることはできない – サイモン・シネック
つまり、あなたに十分大きな夢があり、「自分もその夢を実現したい」という人がいたときにはじめて、あなたとナンバー2の良好な関係性が出来るのです。
そのためにまずあなたの会社の理念(ミッション、ビジョン、バリュー)を明確にすることです。これに関しては、以下のページに詳細を記載していますので、ぜひ参考にされてください。
▶「キングダム」から経営者が学べるリーダーシップ①「政と信からビジョンの大切さを学ぶ」
3.ナンバー2の役割と仕事、人物像を明確にしよう
次にナンバー2の役割と仕事を明確にします。”何を探しているかを知らなければ、決して見つかることはない”という名言の通り、ナンバー2に何を求めているかを知らなければ、そのような人物が現れることがないのです。
ここでも多くの社長が勘違いしがちなことがあります。それは、「ナンバー2 = 自分の分身」だと思っていることです。要するに多くの社長は、自分のミニ版を作ろうと思ってしまう間違いを犯しがちです。
先述した通り、ナンバー2というのは社長の弱みを補完してくれる存在なのです。決してあなたのミニチュア版ではありません。
そこで、ナンバー2に求める役割や仕事、人物像を明確にしましょう。
ナンバー2の役割と仕事には、2つの種類がある
ナンバー2の役割と仕事には、2つの種類があります。組織上の公式な役割と非公式な役割です。
まず、公式な役割というのは、組織図上でその人が担う役割のことです。これには典型的なナンバー2職であるCOO(チーフ・オペレーティング・オフィサー)や社長室長、または営業本部長、技術本部長などの場合もあるでしょう。
一方、非公式な役割には社長の良き理解者であったり、社長と社員の仲介者であったり、社長に忠告をしてくれる諫言役などがあります。
こんな感じで、あなたがナンバー2にどんな役割と仕事を求めるのかを明確にしておきましょう。
ナンバー2は後継者?
もうひとつ、ここで考えておかないといけないのが、ナンバー2は後継者になるのか、そうではないのか?ということです。ここを間違ってしまうと、後で面倒なことになります。
というのは間違いです。
人によっては将来自分がリーダーになることを考えているかもしれませんが、ナンバー2というポジション専門でやりたい、という人もいるのです。その人が後継者候補になるのかそうでないのか、これは本人に聞いておかないといけません。人はそれぞれ夢や人生計画があります。ナンバー2になったからと言って、その人の人生をあなたがコントロールできるわけではないのです。
ただ、後継者にならないからと言ってナンバー2にしてはいけない、ということではありません。後継者は別に探せばいいのです。場合によっては、あなたの代で会社を売却する手もあります。
ナンバー2に向いている人とは?
どんな人がナンバー2に向いているかは、その会社の社長によって異なります。たとえば、社長が数字に強いけど、営業が弱い、ということであれば営業に強い人がナンバー2に向いているでしょう。したがって、ナンバー2に向いている人とは、社長と違った知識、違った能力、違った性格の人であることが理想と言えます。
しかし、いずれの場合にしろ、最重要なことがあります。それは、ナンバー2は理念を高いレベルで共有できる人でなくてはいけないということです。これは必須中の必須です。
もしかしたらあなたの会社には、「理念共有はいまいちだけど、仕事は出来るんだよな~」という人がいるかもしれません。社長としては仕事が出来るので、その人にナンバー2を任せたいと思うかも知れませんね。
しかし、これは危険です。理念共有度が低くて能力が高い人は、将来転職、または独立する可能性が非常に高いです。場合によっては社員を引き連れて独立、なんていうパターンも有ったりします。なので、「能力<理念共有度」の法則が大切です。
この辺に関しては以下の記事でも書いていますので参考にされてください。
▶コアバリューについて解説
ナンバー2候補のチェックリスト
というわけで、ここではどういう人にナンバー2になってほしいかを見てきました。まとめると以下のようなチェックポイントになります。
- どの役職か?
- どんな強みを持っているか?
- 後継者候補かそうでないか?
- 理念の共有度は高いか?
4.ナンバー2候補を(出来れば)二人見つける
次に実際にナンバー2候補を見つけるわけですが、ここでは出来れば二人見つけましょう。
なかなか中小企業では二人探すのは難しいかも知れませんが、これには理由があります。
まず一つ目に、単純にリスク回避のためです。ナンバー2も人なので、病気になったり、怪我したり、と不可抗力で戦線離脱する可能性があります。そのためにも一人だけだと危険なのです。
二つ目に、言い方が悪いですが、競わせるためです。最初はこの人がナンバー2にぴったりだ、と思っても、実際にナンバー2のポジションにつくと、落ち着いてしまって思ったような活躍をしてくれない人もいます。だからもう一人同じような役割を持たせて、その二人が成長しあえるような関係性を作るのです。
三つ目に、これも言い方が悪いですが、転覆を防ぐためです。ナンバー2を選んだあと、彼/彼女が派閥を作ってしまう可能性があります。そうなると社員を引き連れて辞めてしまうとか、ナンバー2がいつの間にか社員の心をつかんでしまっているために社長が言いたいことを言えなくなってしまっているとか、ナンバー2が”自分のやり方”で勝手に仕事をし始めてしまうなどということがあり得ます。そうならないためにも、2人の候補者を見つけておくことです。
この辺に関しては漫画「キングダム」をネタにして記事をアップしています。
5.ナンバー2への期待値と彼らの計画をすり合わせる
ここまで来たら、ナンバー2(候補)の人にあなたの彼らへの期待値を伝えましょう。意外とこれをやっていない社長が多いのですが、大事なステップです。期待値というのは、彼らに将来どういう存在になってほしいのかを伝えるということです。
と、同時に彼らが将来どうなりたいのかも聞きましょう。何度かお伝えしていますが、ここであなたの夢と彼らの夢が共有出来ているかが大切です。
もし彼らが後継者候補でもあるならば、長期的なインセンティブ、すなわちストックオプションや株式報酬なども検討していいかも知れません。
また、彼らの役職を変える(上げる)のも手です。社長に一番近い役職を彼らに与えることで、社内のメンバーも、「あ、あの人がナンバー2なんだな」ということが分かるようになり、仕事がしやすくなります。
6.経験を通じてナンバー2を育てる
そして実際にナンバー2を育てます。ナンバー2を育成する塾も有ったりしますが、外部の研修に頼るだけではダメです。なぜなら、ナンバー2にとって何より大切なのは、会社の理念を共有出来ていること、そして、理念に沿った仕事のやり方が出来ることです。これは外部研修では身につきません。
また、彼らがリーダーとして育つには、何より実地経験が大事だからです。日本の人材育成分野における権威、金井嘉宏氏は、リーダー育成に必要なこととして、
経験:薫陶:研修=7:2:1
という方程式を見出しています。これによれば、研修で得られることは1割しかなく、あとは実務経験と人からの薫陶だということです。
経営者感覚を身に付ける経験とは?
では実際にはどのような経験をさせればよいのでしょうか?日本の大企業では昔から子会社を作り、そこの社長を経験させることで経営者候補を育てる、というやり方を取ってきました。中小企業ではなかなかそのようなやり方は難しいのですが、リーダー育成には以下のような経験を積ませるのが良いとされています。
- 何もないところから何かを作り上げる
- 失敗している事業を立て直す
- 管理する人数、職域の増加
- ライン業務からスタッフへの移動
- ロールモデルの観察
- 事業の失敗
- 部下との対峙
- キャリアチェンジ
- 個人的なトラウマ
先述の金井氏はこれらを”一皮むける経験”と表現しています。
社長の役割はメンター&コーチ
上記のような経験をさせている間、社長であるあなたは細かいところまで口出ししてはいけません。ここでの社長の役割はメンターやコーチとなることです。つまり、アドバイスをすることが役割であり、指示することが役割ではないことを頭に入れておきましょう。
ナンバー2育成でのNG事項
さて、ここまででナンバー2育成のステップを見てきました。最後にナンバー2育成におけるNG事項をご紹介しておきます。
放任
ナンバー2候補が出来始めると社長がやりがちなのが放任です。実際のところナンバー2が活躍し始めると社長には自由時間が出来るのですが、その自由時間を謳歌してしまい、業務を放任してしまいます。これはNGです。先ほど言った通り、社長はナンバー2の良きメンター役、コーチ役にならなくていけません。
ダブル指示
ナンバー2に業務を委任しているのに、社長がナンバー2を通り越して社員に直接指示する、というのもNGです。これはダブル指示ということになり、指示を受けた社員はどちらの言うことを聞いていいのか混乱しますし、ナンバー2は自分の存在意義を失い、社員からの信頼も失います。
諫言を無視
優れたナンバー2は社長に諫言をします。歴史上、リーダーが諫言を聞き入れないというのは、組織が崩壊する大きな要因になっています。社長はナンバー2の諫言を聞き入れるだけの度量、人間力を持つ必要があります。
手足にする
ここまで読んできていただいた方はもうお分かりかと思いますが、ナンバー2というのは社長の手足ではありません。にもかかわらず、社長がやりたくないことを彼らに全部任せ、手足のように小間使いさせるのは良くありません。彼らはあくまであなたの足りないところを補完してくれる存在であることを覚えておきましょう。
仕組みづくりの経験を通じてナンバー2を育てましょう
以上、ナンバー2育成について解説してきました。ぜひご参考にしていただければ幸いです。
なお、仕組み経営は、会社の仕組み化を進めながらナンバー2を育てられます。社長と一緒に自社の理念は何なのか、理念に沿った仕組みとは何なのかを考え、実行に移すことで経験を通じてナンバー2や後継者を育てられます。詳しくは以下のガイドブックに掲載していますのでぜひご活用ください。