2代目社長が”無能”と呼ばれるのは事業承継の杜撰さにあった



2代目社長はなぜ”無能”と言われるのか

世間ではとかく「子供というだけで2代目社長になった」とか「2代目社長だから経営が危ない」などと陰口をたたかれ、2代目社長に対する風当たりが強いのが現実です。また、創業から30年後に存続している企業の割合が実に0.02%に過ぎないという、シビアなデータも存在しています。

しかし、本当に2代目社長は”無能”なのでしょうか?

今回は、2代目社長が陥りやすい苦労やその原因、スムーズな事業承継の方法や具体的な成功例を挙げながら、2代目社長が事業の継続や経営の発展に失敗しないためのポイントを紹介していきます。

2代目社長の苦労

2代目社長の苦労は、主に経営・人間関係・メンタルの3つに分けることができます。

①経営状況の悪化

よくあるケースとして耳にするのが、「会社の経営状態が悪いことを知っているのに、責任感や情にほだされて後継者になってしまった」というものです。事業を承継したものの、実際に経営に取り掛かると、会社の状態が想像以上にかんばしくなく、それが大きな負担となってしまうわけです。

そして、その状況を打破しようと経営改革に意気込んでも、古参社員にブランディングの重要性やデジタル化の必要性を理解されず、せっかく外部で学んだ知識を生かせなくなっているといったケースも見られます。

②社内外の人間関係

父や親族から会社を引き継ぐ際に、周囲から根拠のない反発心を抱かれることがあります。
これはあなたの経営者としての能力にかかわらず生まれるものなのです。そして、組織の足並みがそろわなくなったり、あなたの小さなミスが大きく非難され、社員が指示を聞かなくなってしまうことも考えられます。

また、社内だけでなく、取引先の年上の社長に対して主導権を握れなかったり、銀行からは2代目社長に対するステレオタイプなイメージで融資を増やしてもらえないなど、外部との関係にも悩みを抱えているケースもあります。

③心理的重圧

2代目社長には創業者とは違う大きなプレッシャーがあります。親が守ってきた会社の存続、さらには従業員の雇用の維持など、背負うものが大きくすると感じてしまうわけです。そして、前述した経営や人間関係に対する苦労に押し潰された結果、不安やリスクを避けるために体と心に大きな負担がかかった、そういうケースを数多く見聞きしてきました。

さらに、抱えた悩みを誰にも相談できなかったり、弱音も愚痴を吐くこともできないという孤独感がぬぐえず、疑心暗鬼になって周りが全員敵だと感じてしまうという負のループに陥ってしまいがちです。これは2代目社長に限らず、経営者という立場なら誰でも経験するものですが、進路の選択肢がなかった2代目社長にとっては受け入れ難いものと感じられることがあります。

2代目社長がうまくいかない理由

このように2代目社長が事業承継につまづいてしまう原因は何なのでしょうか?
それは、多くの経営者が「事業継承」と「事業承継」を混同していることから生まれています。文字通り「継承」とは「継ぐことを承る」ことで、「承継」とは「承って継ぐ」ことを意味します。2代目社長が成功するために必要なものが、後者の「承継」なのです。

では、何を「承る」のかというと、それが会社の理念なのです。2代目社長が創業社長の背中にばかり目を向け、それを追いかけようとするから、常に自分自身を比較の対象としてしまい、周囲もそういう見方をするわけです。そうではなく、2代目社長も社員も共に会社の理念に目を向けるようになれば、会社が本来あるべき姿に向かって経営を進めていくことができるようになります。

そのためにまず必要になるものが、会社の理念の言語化です。これを事業承継に先立って準備しておくことで、2代目社長への批判を減らし、社内のポジティブな一体感を生み出すことが可能になるわけです。

事業承継、会社承継の正しいやり方

ここからは、2代目社長に正しく事業承継を行うための方法を、5つのステップに分けてご説明していきます。

事業承継の準備

中小企業経営者の平均引退年齢は67〜70歳と言われ、現在の経営者の年齢分布を踏まえると、多くの経営者が事業承継のタイミングを迎えています。では、その準備が正しく行われているのかというと、非常に危ういものがあると言わざるを得ません。

後継者の育成には、その準備期間も含め5〜10年の時間が必要だと考えられているにも関わらず、多くの経営者は認識が甘く、先んじて取り組み始めているケースは非常に少ないのが現状です。このままでは、数年間のうちにかなりの数の企業が事業承継をうまく行えず、結果的に会社を失うことになってしまう恐れがあります。これは先ほどご紹介した、創業30年後の存続率にも裏付けられています。

これを避けるためには、経営者が事業承継問題に対する危機感を持ち、これから紹介する、正しい事業承継の5つのステップを学ぶことが必要となります。

事業承継の5つのステップ

事業承継には、大きく次の5つのステップがあります。

ステップ1:事業承継の必要性の認識

まずは経営者自身が経営承継の準備の必要性を認識する必要があります。比較的若い経営者であっても、会社がある程度成長してきた段階でこれを始めておきましょう。

なぜなら、承継を考えることは事業全体の将来像を考えることと同じだからです。将来的な事業のビジョンはどこにあり、現状の経営がどうなっているのか、ビジョン達成に必要なのものは何か、事業承継はその中でどのような役割を担うのかなど、事業承継の準備は経営者にとって本質的な会社の未来を真剣に考えるきっかけにもなるからです。

ステップ2:経営状況・課題の見える化

このステップで、未来の経営方針を決め、その実現に向けた現状分析を行います。ここで10年後の会社像を想像し、現在とのギャップを3つの観点から見える化します。これによって、2代目社長が陥りがちな「想像していたよりも経営状態が悪かった」という悩みを解消することができます。

①事業の見える化

市場の変化に対応できるか、競合と比べた会社の強みや弱みの再認識など様々な観点から評価を行い、課題を見つけます。

②資産の見える化

経営者の個人資産や会社の貸借関係などを確認し、後継者に残せる経営資源を明確化します。

③財務の見える化

適切な会計処理を通じて財務状況を明らかにしましょう。

ステップ3:経営承継に向けて会社を「磨き上げ」

現状を把握できたら、次に未来のビジョンに向けた会社の磨き上げを行います。



後継者にとって企業価値の高い魅力的な会社にするために、事業と組織体制を磨き上げます。

自社の圧倒的強みを確立し、業務の効率化、組織体制の再構築を通じて社員のモチベーション・生産性を向上させましょう。

磨き上げについてはこちらに詳細を載せております。

事業承継やM&A(会社売却)における「磨き上げ」って何?

 

ステップ4:事業承継計画の策定

事業承継を着実に進めるために、経営承継を円滑に進めるための具体的なアクションプランとなる事業承継計画を策定します。まずはステップ2で行った現状分析から、会社の中長期的な経営方針や目標を設定し、その中に事業承継の行動計画を盛り込んでいきます。

ここで最も重要となるのが、承継作業スケジュールとは別に、先ほどの会社の経営理念や経営者の思いをはっきりと盛り込むことです。なぜ創業したのか、どんなビジョンやミッションを持っているのか、経営者の人生にとって会社はどんな位置付けなのかといったことを言語化していきます。

会社は経営者の魂とも呼べるものです。これまでの成長は創業者の情熱あってこそのものなので、これまでの自分と会社の歩みも後継者や従業員にしっかりと理解してもらうことに十分な時間を割いてください。

ステップ5:事業承継の実行

株式や資産、経営権の承継を実行します。経営承継の計画を立てることはもちろん大切ですが、一番難しいのが実際に行動に移すことです。経営承継を成功させるために必要になる具体的なアクションとして、次の5つが挙げられます

①後継者の育成方法

社内外での実務経験や経営の知識獲得はもちろん、経営理念もしっかりと教えることが重要です。子どもや親族だからといって、「自分の仕事ぶりを見て分かっているだろう」という考えは禁物です。

②経営権の分散防止

事業承継においては、後継者に株式と経営権を集中させることが望ましく、この実現には事前の対策が必要です。生前に自社株式を贈与するか、遺産についての遺言などを残しておくとスムーズに承継が進みます。

③事業承継に伴う税金対策

後継者が株式や資産を取得することに伴い、贈与税や相続税が発生します。ただし、事業承継においては贈与税や相続税の免除制度があります。その他、小規模宅地等の特例や死亡退職金に対する相続税の非課税枠などの特例もあるので、よく把握しておきましょう。

④事業承継に伴う資金調達

事業承継は、承継前の会社の磨き上げや納税、承継後の安定した経営のために資金を要します。資金調達の成否が成功の鍵を握っているのです。調達方法としては、金融機関からの借入のほか、役員報酬の引き上げが一般的ですが、ベンチャーキャピタルやファンドからの出資ケースも増えてきています。

⑤債務や個人保証への対応

事業承継の際には、現経営者が負っている事業用債務の承継、また経営者が会社に貸している債権・債務関係に注意する必要があります。また、前経営者の保証を解除するにあたり、金融機関などの債権者の同意を取り付ける必要があります。

事業承継のより詳しいステップについてはこちらの記事で紹介しています。

【経営承継マニュアル】承継の5ステップと計画の策定法

 

2代目社長の成功例

ネガティブなイメージがつきまとう「2代目社長」ですが、もちろん成功例もあります。ここでは2つの実例を取り上げます。

ファーストリテイリング

柳井正氏は年商2兆円を超えるユニクロを創り上げた経営者として有名ですが、この方も2代目社長なのです。父の等氏は、山口県宇部市で紳士服を販売する小郡商事株式会社を営んでいました。柳井氏は早稲田大学政経学部を卒業後にジャスコ(現・イオン)に入社しますが、数ヶ月後で退社します。

そして1972年、家業に入社します。経営を任された柳井氏は、ジャスコで学んだ経営理論を振り回しますが空回りし、従業員が1人を残して辞めてしまいます。先ほどご説明した、2代目社長の悩みそのままの状況に陥るわけです。

しかし柳井氏は、残った社員と共に商品の仕入れ・経理・販売・広告まで担当し、やがて紳士服業界のノウハウを理解していきます。特にマクドナルドの創業者レイ・クロックの著書に感銘を受け、社名の「ファーストリテイリング(FAST RETAILING)」は、マクドナルドに代表される「ファーストフード(FAST FOOD)」がその由来となっています。柳井氏の「いつでもどこでも誰でも着られる服」を販売しようという思いが込められいるのです。

その後、これまでの紳士服店からカジュアル衣料店へと大きく業態転換し、1号店を地元の山口県ではなく、広島県に出店しました。ここで父からの猛反対を受けますが、柳井氏はそれを押し切ります。その後のユニクロの目覚ましい成長は、あらためてご紹介するまでもありません。

柳井氏は家業の紳士服業を承継し、カジュアル衣料へと大きな方向転換を遂げました。その過程では2代目社長ならではの悩みもあったわけですが、新しい成長戦略を取らなければ、小郡商事は事業の継続を諦めざるを得なかっただろうと予想されます。

ウォルマート

ウォルトン家は、ウォルマートを所有する世界で最も裕福なビジネスファミリーとして知られています。創業者であるサム・ウォルトンは、1945年に前身となる雑貨店を開業し、1962年にウォルマートストア第1号店をオープンします。

その後、サム・ウォルトンは大型店を中心とした地方での出店を進めていきます。ドミナント方式(チェーンストアが地域を絞って集中的に出店する経営戦略)をいち早く導入し、流通革命を先導、物流や情報を最大限生かした効率的な経営で、ウォルマートを全米最大の小売業へ導きました。



創業者のサム・ウォルトンは、ビジネスの80%をアリス、ジム、ロブソン、ジョンの4人の子どもたちに承継し、1988年にCEO を辞任しますが、亡くなる40年も前から事業承継の準備に取り掛かっていたと言われています。彼が亡くなったのは1992年ですから、実に1950年代、つまり第1号店のオープン前から事業継承のプランニングをしていたわけです。これは、事業継承というものが出口戦略の側面を持っていることを意味しています。

自身が取り組んでいる事業が成功を収める以前から、その未来像を描いていたと言えるわけです。また、それぞれの後継者は「現場こそが顧客との唯一の接点であり、店が顧客に好まれる場所でない限り、どれだけ大企業になっても無意味である」というサム・ウォルトンの思想をしっかりと受け継いでいます。

ウォルマート、そしてウォルトン家の今日に至るまでの成功は、事業継承にはいかに長い準備期間が必要なのか、その前提として会社理念の言語化がどれほど重要なのかを示す好例となっています。

2代目社長が失敗しないために

ここまでご説明した通り、2代目社長への事業承継を成功させるには、会社理念の言語化に始まり、事業承継計画の策定、そしてその実行までの仕組みづくりが重要となります。

私たち仕組み経営でも、事業承継に向けたプログラムを提供しています。「事業を今よりも発展さえ、存続させたい」「後継者に苦労をかけず、経営に集中できるようにしたい」とお考えの経営者の皆様は、ぜひ一度ご相談ください。

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