聖人、君子、小人、愚人の分類
経営者であれば、幹部や後継者選びに悩むことがあるでしょう。その際に役立つ方針として聖人、君子、小人、愚人という4つの分類があります。この分類は、儒教の思想に基づく人格分類になります。個人の徳性と知識を軸に人物を評価し、4つに分類します。
徳性と知識、リーダーシップの重要性
儒教の思想では、徳性は個人の品格や人間関係における道徳的な資質を指し、知識は学識や知恵、教養を指します。これらは共に、リーダーシップにおいて欠かせない要素です。徳性は誠実さや公正さ、他者への配慮といった美徳を含み、リーダーとしての信頼性を高めます。知識は的確な判断や問題解決能力を提供し、リーダーの決断力や洞察力を向上させます。
上図のとおり、
- 徳と知を兼ね備えた人を聖人
- 徳を備えた人を君子
- 知のみを備えた人を小人
- 徳も知もない人を愚人
と分類します。
以下に詳しく見ていきましょう。
聖人(聖人)とは?
聖人は、儒教の思想において最も尊ばれる人格者であり、高潔で優れた徳性を持った人を指します。彼らは善悪の判断を超え、誠実さや公正さ、そして無私の愛といった美徳を具現化した存在とされます。聖人は人々に道徳的な模範を示し、社会の調和と平和を促進する使命を担っています。
高潔な人格者としての特徴
- 誠実と正直さ: 聖人は常に真実を語り、自らの信念に忠実であることが求められます。彼らは嘘や欺瞞から遠ざかり、真摯な姿勢で人々と接します。
- 公正と慈悲: 聖人は公平であり、他人に対して偏見を持たず、誰に対しても慈愛深く接します。人々を理解し、助け、発展させることを願い、慈悲の心を持って行動します。
- 自己犠牲と無欲: 聖人は自己の欲望やエゴを超え、他人の利益や社会の幸福を優先します。彼らは物質的な欲望に執着せず、無欲であり、自己犠牲の精神を持って行動します。
聖人のモデル「三皇五帝」
「三皇五帝」は、易を創造し、文化を興し、農業を発展させるなどした大陸で伝えられる伝説上の8人の王です。三皇は神聖視され、五帝は聖人とされ、彼らの治世は理想の時代とされています。この時代には、権力の座を世襲ではなく、有徳の者に譲る「禅譲」の精神が生まれました。
三皇(さんこう)
- 伏羲(ふくぎ): 伏羲は、大陸の神話において人間の祖先とされる存在で、文化の創造者として知られています。彼は八卦(易の基本的な記号)や漢字の起源とされ、人々に農業や狩猟、結婚などの文化を教えたとされます。
- 女媧(にょな): 女媧は、女性の神で、人間の創造を担当したとされています。彼女は五臓六腑(体内の臓器)や音楽の原則を発見し、人々に医学や音楽、建築などの知識を授けたとされます。
- 神農(しんのう): 神農は、農業と薬草の神とされています。彼は農業の技術を向上させ、さまざまな植物の特性を研究し、薬草の利用方法を人々に教えたとされています。
五帝(ごてい)
- 黄帝(こうてい): 黄帝は、最初の皇帝とされ、政治や文化の基盤を築いたとされています。彼は軍事戦略や医学、占星術などの分野で知識を広め、道徳的なリーダーシップで人々を統治したとされます。
- 炎帝(えんてい): 炎帝は、火と農業の神であり、農業と医学の発展に貢献したとされています。彼は農耕技術を向上させ、疫病の予防法を伝えたとされています。
- 堯(ぎょう): 堯は、賢明な皇帝とされ、儒教の経典『尚書』にも登場します。人々に道徳的な価値観を広めたとされます。
- 舜(しゅん): 舜は、堯の後継者として知られ、仁徳の皇帝として評価されています。彼は賢明な判断力と卓越した徳性を持ち、官吏の任命や国政の改革を行い、人々に公正で平和な社会を提供しました。
- 禹(う): 禹は、洪水を制御したとされる英雄的な皇帝で、治水技術と土木工学の発展に貢献しました。彼の統治下では災害が減少し、人々の生活が安定しました。
実在の聖人例:マハトマ・ガンディー
マハトマ・ガンディー(Mohandas Karamchand Gandhi)は、20世紀のインド独立運動の指導者として知られ、聖人として尊ばれています。彼は非暴力と公民的抗議の手法を駆使し、インドの独立を達成する運動を指導しました。ガンディーは誠実さ、公正さ、慈悲の心、そして自己犠牲の精神で満ちた人格者として、世界中で尊敬されています。彼の行動と哲学は、聖人の理想的な特徴を示す優れた実例とされ、今日でも多くの人々に影響を与えています。
君子(くんし)とは?
君子は、儒教の思想において高い徳性を持つ人物を指します。彼らは社会的な規範に従い、他者に尊重され、信頼される人格者として尊ばれます。君子は、徳と知識を組み合わせ、誠実で公正な行動を通じて、人々を導き、社会の発展と調和を促進します。
徳が優れたリーダーシップを持つ人物
高潔な徳性: 君子は高い道徳的価値観を持ち、誠実さ、公正さ、忍耐強さ、礼儀正しさといった美徳を実践します。彼らは自己の欲望を抑制し、他人に奉仕する善意を持って行動します。
君子のモデル:孔子
君子のモデルとして最も知られているのは孔子でしょう。言わずと知れた儒教の普及に大きく貢献した人物です。孔子の言葉を中心にまとめた儒教のテキスト「論語」はつとに有名です。孔子の弟子は数千人いたとされ、弟子からは孔子こそが聖人だという評判もあったようですが、孔子は歴史上の皇帝を聖人とし、自分はそれには及ばないと謙遜していたとされます。
小人(しょうじん)とは?
小人は、儒教の思想において才能や能力はあるものの、徳性に欠け、自己中心的で道徳的な価値観を持たない人々を指します。彼らは自己の欲望や野心を追求し、他者や社会全体の利益よりも個人の利益を優先する傾向があります。小人は徳に欠けることから、しばしば不正義や不道徳な行動に走ることがあり、社会的な課題を引き起こすこともあります。
才能はあるが徳性に欠ける人々
- 自己中心的な行動: 小人は自身の利益や快楽を追求し、他人や社会の幸福を度外視することがあります。彼らは自己中心的で利己的な行動に走り、他者の利益や権利を軽視することがあります。
- 欺瞞と不正: 小人は時には詐欺や不正行為を行い、他者を欺いたり、法や倫理規範を犯したりすることがあります。自己の利益のために正義や公正を無視することが一般的です。
- 利己主義と欲望の追求: 小人は欲望のままに振る舞い、欲望の充足を追求することが最優先です。他人の感情やニーズを無視し、自己の欲望を満たすことに注力します。
小人の例:政治やビジネス界の貪欲な人物
実際の社会では、政治やビジネス界で、欲望や利益を追求し、他者を犠牲にする人々がしばしば見受けられます。彼らは自己の成功や富を追求することを第一に考え、不正な手段を使ってでもその目的を達成しようとすることがあります。こうした人々は、欲望の追求が徳性や道徳的価値観を蔑ろにし、社会的な調和や公正を損なうこととなります。
愚人(ぐじん)とは?
愚人は、儒教の思想において知識や徳性が乏しく、利己主義的で他人や社会に対する共感や理解が欠如している人々を指します。彼らは自身の欲望や利益を追求することにのみ興味を持ち、他人の幸福や権利を無視し、しばしば不道徳な手段で自己の目的を達成しようとします。愚人は自己中心的な行動と短視的な考え方が特徴であり、その結果、社会的な課題や摩擦を引き起こすことがあります。
知識や徳性が乏しく、利己主義的な人々
- 無知と無識: 愚人は知識や教養が乏しく、他人や世界に対する理解が不足しています。彼らは自己の視野が狭く、他人の視点や感情を理解する能力が低い傾向があります。
- 利己主義と欲望の追求: 愚人は自身の欲望や快楽を最優先に考え、他人のニーズや権利を度外視します。彼らは短期的な利益を追求し、自己の欲望を満たすことに注力します。
- 不道徳な行動: 愚人はしばしば不道徳な手段を使ってでも自己の目的を達成しようとします。彼らは嘘や詐欺、不正行為といった不道徳な行動に走ることがあり、他人を欺いたり、害を与えたりします。
愚人の例:非倫理的な実業家や政治家
実際の社会では、実業家や政治家の中には、自身の利益を最優先にし、不正や腐敗といった不道徳な手段を使ってでも成功を追求する人々が存在します。彼らは法を犯し、他人や社会のルールを無視し、自己の利益を追求することで、しばしばスキャンダルや論議を引き起こします。こうした行動は、社会の調和や公正を損ない、信頼関係を壊す結果をもたらすことがあります。
愚人として挙げられる実在の例は、時折メディアや公共の場で取り上げられ、彼らの行動が社会に与える影響について懸念されています。知識を深め、徳性を高め、他人との共感を大切にすることが、社会的な安定と調和を築く一歩とされています。
後継者や幹部にすべきは?
以上、聖人、君子、小人、愚人の違いを見てきました。ではこの中から、後継者や幹部にすべきは誰でしょうか?
まず聖人が第一優先になるのは議論の余地がないでしょう。ただし、中小・成長企業においては聖人と言えるような人物はほとんどいない(世の中全体で見てもほとんどいない)のが実態です。
では次に優先すべきは誰か?現代のビジネス界では、知識が豊富な小人が重宝がられますが、組織を統治するためには、小人ではなく、君子を貼用すべきです。なぜならば、どんな知識も徳に基づいて活用されなければ逆効果になるからです。したがって、第二に優先すべきは君子です。
では三番目が小人か?と思われるかもしれませんが、これも違います。第三に優先すべきは愚人です。愚人は知性も徳性もないですが、その分だけ組織においては影響力がない人物です。つまり、いてもいなくてもたいして影響がないのです。一方の小人は、利己的な目的のための知識だけは豊富なため、組織でうまく立ち回り、悪影響を及ぼす可能性があるのです。
したがって、小人は決して幹部や後継者にしてはいけません。
(現実的には政治やビジネス界で小人が昇格していくケースが多いのが残念なことです)
以上、本記事を参考に、人材登用の参考にしていただければ幸いです。
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