後継者の選び方。5つの基準について解説。



清水直樹
後継者選びは、社長にとって、最後で最大の大仕事だと言えます。後継者の選び方次第で、会社が存続もすれば崩壊もします。そこで今日は、後継者の選び方についていくつかの指針を見ていきます。

 

後継者を選ぶ基準と仕組みを持つ

会社は永続させていくことが大切です。そのためには、社長が何代も代わって経営し続けなくてはなりません。ということはつまり、あなたが社長だとして、後継者を上手く選べたとしても、さらに次の後継者も正しく選べるようにしないといけないわけです。

こう考えれば、その都度都度、後継者をどうやって選ぼうかな?と考えるのではなく、会社として”後継者を選ぶ基準と仕組み”を持つことが大切だということになります。会社として後継者を選ぶ基準と仕組みを創り上げれば、それが資産となり、後々の世代まで役に立ちます。

後継者を選ぶ基準

後継者を選ぶ基準とは、後継者となる人の条件のことです。たとえば、どういう経験をしたとか、どういう人柄とか、年齢が何歳以上とか。これらの基準のヒントについては後述します。

後継者を選ぶ仕組み

次に、後継者を選ぶ仕組みです。これはプロセスと言い換えてもいいかも知れません。たとえば、現役社長が何歳になったら、次の後継者を選定し始める、だれだれ(役職)の承認を得たうえで選定する、就任後のプロセスはどうする?などです。基準に沿った人がいたとしても、どのタイミングで、誰がどのように決めるのかを決めておかなければ、経営の承継はうまく運びません。

このテーマについては本記事ではあまり説明しませんが、以下の記事に事例をご紹介しています。

自走式組織の作り方(29歳女性リーダーが実現した事例)

 

後継者の選び方①判断基準が共有されていること

社長業の大半は、”判断”で成り立っています。顧客からの要望にどう対応するか?社員からの問い合わせにどう対応するか?これらの判断を日々行っているのが社長です。幹部社員やいわゆるナンバー2、ナンバー3などの方々は、日々の仕事は上手くこなしてくれるかもしれませんが、最終的には判断は社長に任せられることになります。一方の社長は、他に判断してくれる人がいないので、自分の判断が最終決定となります。いくら社長の傍で幹部的な役割を担ってきたとしても、社長となった瞬間にその重圧が生じ、耐えられなくなる人もいます。

正しい判断とは何か

そこで、これが正しい判断だ、といえるような判断基準が無くてはなりません。現役社長が後継者候補に対して不安や不満を持つのは、その判断基準が自分と異なると思うからです。

そこで私たちがお勧めする方法は、あらかじめ会社としてのコアバリュー(中心的価値観)を定め、それを全社員に共有していくことです。コアバリューは、”この会社として何が正しく、何が正しくないのか?”を決定づけるものであり、まさに会社としての判断基準になります。

コアバリューは社長の個人的な価値観に大きな影響を受けます。たとえば、社長が”何よりも儲けることが大事だ”と考えていれば、会社の価値観も同じになり、社員も儲けが大事、と考えるようになります。社長が”誠実さことだ大事だ”と本心から思っていれば、会社の価値観も”誠実さ”になり、社員も誠実な仕事をするようになるのです。

コアバリューは文書化することも大事ですが、それだけでは不十分です。採用の際の基準、評価の際の基準にも使っていくことで徐々に共有されていきます。

そして、社員の中から、最もコアバリューの共有度が高い人を後継者候補として選び、育てていくことが大切です。

コアバリューについては以下に詳細を解説しております。

コアバリューの意味や事例、作り方までわかりやすく【完全解説】

 

稲盛和夫氏の後継者選び

後継者選びで成功した社長の1人として、稲盛和夫氏が挙げられます。稲盛さんは常勝経営と言っていいほど、失敗が無い方ですが、後継者選びでも失敗していません。

稲盛さんが京セラの社長になったのは、1966年の34歳の時。実はそれ以前は、出資してくれた宮木電機の宮木氏や、松風工業時代の上司、青山氏が社長でした。

さらに意外なことに、社長を辞めて会長になったのは、53歳の1985年です。今の感覚から言っても、かなり早い社長退陣と言えるでしょう。

稲盛さんは早々に後継者を選んだ

稲盛さんの後継者として社長に就任したのは、創業以来、営業畑だった安城欽寿氏です。なぜ稲盛さんはそんなに早く社長を引退したのか?

ひとつの背景を表すエピソードが、安城氏の講演にあります。

稲盛社長の下で京セラはずっと倍々での成長を遂げてきた。そんな中売り上げが落ちる瞬間が来た。その時に稲盛が自分を呼んで、技術の京セラから営業の京セラに変えようと言い、自分を社長に据えました。元々嫌だと言っていたが、やれという一言は絶対でしたからね。25歳の時に入社して37歳の時に大阪2部に上場した時に取締役になりました。 – 2019年8月26日EO例会

このように京セラの経営環境の変化が社長引退の要因だったようです。

また、もうひとつの背景としては、稲盛さんが社長というポジションにこだわっていなかったことが挙げられるでしょう。もともと京セラは、稲盛さんが周りの人たちから協力を受けて設立した会社です。そのため、京セラは自分個人のものではなく、社会の公器、または社員たちのものである、と考えていたのだと思います。なので、社長というポジションに固執することなく、必要な時に必要な人に社長を譲る、という考えだったのでしょう。



稲盛さんの後継者の選定基準

そんな稲盛さんの後継者の選定基準は次の言葉に表れています。

私は後継者を決めるとき、能力だけを見たわけではありません。経営、技術といった能力は当然重要ですが、最も重要なのは「魂」ですよね。大事なのは誠実、善良、慈愛の心、利他の心を持っていることで、私はそういう人を後継者に選びました。仕事ができるのはもちろん大前提としてあります。 – 2014年中国・杭州市

稲盛さんといえばフィロソフィですが、フィロソフィを体現している人を選んだということです。

また、経営幹部には、いつも稲盛和夫だったらどう判断するか?と考えて行動してほしい、と言っていたそうで、次のように語っています。

皆さんはこれまで私の横にいて、私が瞬間、瞬間にどういう判断をし、どういうふうにし て激しく叱り、あるいは褒めたのかというこ とを見てきたはずです。ですから、稲盛和夫 であったとしたら、この問題についてどう考 え、どういうことを話し、どういう判断をし ただろうかということに思いを馳せて、経営判断を私に代わってしてほしいのです。 – 盛和塾24回世界大会

稲盛氏の事例から考えますと、そもそも現社長である自分自身が社長としてのお手本となるフィロソフィ(私たちで言うところのコアバリュー)を明確に持つこと。そして、それを徹底的に共有していくことが大切だと言えるでしょう。

 

後継者の選び方②修羅場をくぐった経験があること

先に言った通り、社長と幹部の大きな違いは、最終判断をするかどうか?です。そして、次のステップとして、下した判断に対する最終責任を負えるかどうか?です。自分が下した判断なのにも関わらず、それを部下のせいにしたり、景気のせいにしたり、はては顧客のせいにしてしまう人などは社長になり得ません。

修羅場をくぐらせる

つまり、あらゆることに対する最終的な責任感を持てることが後継者の条件と言えます。

では、そんな責任感を持ってもらうにはどうしたらよいでしょうか?

それが”修羅場”の経験です。たとえば、

  • 何もないところから何かを作り上げる
  • 失敗している事業を立て直す
  • 管理する人数、職域の増

などが代表例と言えるでしょう。これらの仕事に完全に責任を持ってもらう、つまり、実際には社長ではなくとも、その件に関しては完全に責任を背負ってもらう、ということです。

正直これは簡単な話ではないと思います。私も会社員時代、新サービスや新拠点の立ち上げの責任者となったことがあります。ただ、責任者とは名ばかりで、実際には、”うまく行かなくても会社のせいだ”、”自分がお金を失うわけでもないし”、”なんでここまで言われなきゃならないんだ”という思いで仕事をしていた記憶があります。今考えると全く責任感が無かったな、思うのですが、そんな人間はとても後継者にはなれないわけです。

 

後継者の選び方③何より会社を優先させられること

ワークライフバランスという言葉が一時期流行りました。大企業の社員であればそれもいいかも知れませんが、中小・成長企業の社長がそんなこと言っていては会社は立ち行かなくなります。

24時間働けるか?

社長は趣味や娯楽よりも会社を何より優先させなくてはなりません。一般社員と違い、社長になれば一日、何時間働いてもいいわけですから、頭は24時間、身体は起きている時間ずっと会社のことを優先させられることが大切でしょう。

なので、いくら仕事が出来ても、”仕事は仕事。趣味の時間を大切にしたい”というような人は後継者に向いていません。

 

後継者の選び方④将の将になれる人徳があること

「武の力があれば兵の将にはなれるが、将の将になるためにはそれだけでは足らない。人徳が必要である」という言葉があります。

ここで言う武の力、というのが仕事が出来るかできないか、ということです。ご自身の職人技で成り上がってきた社長がやりがちなのが、最も仕事のスキルが高い人を後継者に選ぶということです。しかし、腕が良いというだけで後継者になることはできないわけです。

人徳とは?

社長は「将の将」です。したがって、人徳が必要となります。人徳が何かといえば

  • 人に貢献しようとする心があること(利他心)
  • 知識(様々なことについて良く知っている)、見識(自分の意見や主張がある)、胆識(見識に基づいて決断、行動できる)があること
  • 社員から尊敬を得られること

などが挙げられます。

これらは近くで仕事をしていれば人徳があるかないかを判断できると思います。

 

後継者の選び方⑤報徳の精神があること

報徳とは、受けた徳に報いる、ということです。後継社長になる人は、”与えられた社長業という仕事と、会社を社会に役立てる”、という報徳の精神が欠かせません。

逆に報徳の精神に欠ける人というのは、”自分は社長として選ばれるために頑張ってきた”と考えます。社長からすると、”野心があってやる気がある奴だな”と思うかも知れませんが、こういう人は、社長の椅子に座ることで満足します。社長就任後は、権力を振りかざし、ろくな経営をしないうえに、社長の椅子にこだわり続けることが目に見えています。

会社は預かりもの

報徳の精神について参考になるのが、三方良しの原典を書いたとされる2代目中村治兵衛(1685-1757年)が遺した「宗次郎幼主書置(かきおき)」です。

自分の一生は、その身代をわが子に渡すまでのたかが30年である。親から譲られた財産を大切にして、自分の子供たちに無事に渡すべきものである。たった30年間の手代や番頭をすると思って、家業に努め、財産を大切にすべきである。

これはまさに報徳です。この会社は一時的な預かりものであるという考えの元、利己心に寄らない経営をしていこう、というわけです。



後継者に選ぶ人にはこういった考え方が必要と言えます。

三方良しについては以下の記事をご参照ください。

近江商人「三方良し」の起源と意味や経営における使い方

 

後継者の選び方は会社の資産

というわけで、後継者の選び方について5つの要件を見てきました。冒頭で申し上げた通り、大切なことは、自社なりの後継者の選び方を会社の仕組みとして残していくことです。そうすれば、さらに次の世代の後継者選びの際に、右往左往する必要が無くなります。

そのためにも、社長としての最後で最大の仕事に余念なく取り組んでいただければと思います。

なお、仕組み経営では、ここで述べたようなコアバリューの策定から、将の将として後継者候補を育成していくところまで一貫してご支援しています。詳しくは以下の仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。

 

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