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「3件の会社・事業売却に成功した仕組みづくりとは」2019年2月インタビューレポート 新部勝美様

今月のインタビューレポートは、実業家。中小企業診断士、認定M&Aアドバイザーの新部勝美さんです。

新部さんは、「はじめの一歩を踏み出そう」を読んで起業・仕組み化し、3件のバイアウト(売却)を実現されました。現在は、その経験を活かし、M&Aのコンサルティングなどでご活躍されています。

 

新部勝美氏プロフィール:

上場企業や年商250億円以上の企業に、起業した複数会社からITメディア、健康食品メーカーなど、3件のバイアウト(会社・事業売却)を経験しました。 バイアウトを狙って起業したわけではなく、次のライフステージやキャリアステージを求めた結果、M&Aエグジットを選択しました。 会社員時代は化粧品大手のコーセーでブランド企画と営業職。現在はITサービス、コンサルティング、M&Aアドバイザリー業を営んでいます。

 

今回のインタビューでは、

  • どんな事業を売却したのか?
  • 売却のために行った仕組み化とは?
  • 事業売却時のハードルや課題は?
  • 二束三文でしか売れない会社の特徴
  • 高値で売れる会社の特徴
  • 事業売却することの大きなメリットとは?

などをお伺いしています。

会社を売りたい、と既に思われている方はもちろん、今後5年、10年後にどうしていこうか悩んでいるという方も是非ご覧ください。

 

清水

簡単にこれまでの仕事のキャリアを教えてください。

 

新部氏

はい、社会人スタートはコーセーという化粧品メーカーでブランド企画の仕事をしておりました。そのあとに、健康食品メーカーを起業し5年ほど経営しました。4500円の健康食品を年間30万個くらい販売する会社になりました。起業目的は独り立ちして自分で食えるようになりたいだったのですが、それがどこかでお金儲けしたいに変わり、ある程度願望が叶えば、頑張る気持ちが萎えちゃいましたね。もともと物欲はほとんどなく派手な生活や交流より、好きな時間に起きて本を読み、広い公園を走るだけで十分なんです。そんなとき孫正義さん、本田宗一郎さんも自身がゼロから作った事業を売却した後に、それぞれソフトバンクとかホンダを創業された話を聞いて、自分も会社売却しようと思いました。

 

清水

社員はどれくらいいたのですか?売却後はどうされていたのですか?

 

新部氏

最終的には20名くらいの会社になりました。売却後はぶらぶらというか、ゆっくり過ごしていました。仲のいい身近な人とだけの交流、長めの海外旅行など、最初は楽しいですが、数ヶ月もすれば飽きます。売却した会社を経営していたときに、経営の教科書を学びたくて中小企業診断士という資格を取りました。その会合に顔を出すようになってから2年弱くらい、中小企業向けの経営コンサルタントの仕事をさせて頂くようになりました。ただ、なんかこれじゃないなと思って過ごしていたところ、とあるご縁で起業したいという女性と出会い、その女性とその弟と3人でインターネットのサービスを立ち上げることになりました。それが2010年だったのですけど、2016年、17年と立て続けにメインとなる事業を売却することになります。

 

清水

なるほど。最初の健康食品の売却は初めての売却だったと思うのですが、スムーズにいきましたか?

 

新部氏

いえ、全くスムーズにいかなくて。なんとなく経営自体は自信があったというか、中小企業診断士の資格勉強の過程で、フレームワークとか、理論的に考えることは決して不得意ではなかったので対応できるでしょうと。ただ、やっぱり売却時には全く通用しないというか、経営スキルとは全く別のスキルや経験が必要だったのです。まあ舐めていたということですね(笑)

 

清水

経営する能力と売却に向けて準備するスキルが違うというのは、具体的にどの辺が違ったのでしょうか?

 

新部氏

大きくは2つあるかなと思うのですが、1つは、売却に向けた準備から終了するまでに登場する人物との付き合い方です。仲介会社であったり弁護士さんであったり、会計士さんであったり、こういった方々と一緒に会社売却に対して向き合うのが初めてだったにも関わらず、相手の利害を良く考えず自分本位の付き合い方だったために、十分に協力を得られなかった、うまくお付き合いできなかったという反省があります。

もう1点は、これは売れる会社の1番重要なポイントの1つだと思うのですけど、実際に再現性があるように仕組み化されてた事業となっており、さらにそれが相手に十分伝わることです。私の場合は、売却した1社目はそこまで仕組み化できてなかったのですが、買い手さんが割と寛容的で、買った後で自分たちでカバーできるという判断をして頂いたのと、ドラッグストア6000店舗という販売チャネルに魅力を感じ、シナジー効果も見込んで買収の判断に至ったのだと思います。

 

清水

販売チャネルに魅力を感じて値段が付いたということですね。仕組み化された事業という要素が低かったのですね?

 

新部氏

会社全体の仕組み化という発想はなかったです。これはあとからわかったことですけども、実務、採用、組織体制などが有機的に結びついていないと仕組みとしては不完全だと思います。マニュアルみたいなものがバラバラに存在していたのですが、一貫性はありませんでしたね。

 

清水

なるほど。ちなみに売却した後は、いわゆるロックアップされる期間があると思うのですが、それはなかったのですか?

 

新部氏

そうですね。ロックアップ期間無しで買っていただくっていうのが第一優先で考えていたので。他にも買い手候補がいて売却価格も高かったのですが、ロックアップ期間の条件がありそこはやめました。

 

清水

「はじめの一歩を踏み出そう」には、いつ出会われたのでしょうか?

 

新部氏

2社目を起業して、3人で起業したのですけども、1人目か2人目を雇用しようとしたときですね。1回目の売却のときの状況がよぎって、次は仕組み化された会社や事業を創りたいなと思って書籍やセミナーなどで参考になるものを探していたのですが、そのときに初めて出会いました。

 

清水

一番ピンときた部分はどの辺でしたか?

 

新部氏

多分、「会社を見守る対象にする」というようなフレーズがあったと思うのですけど、その言葉に結構惹かれたと思います。

昔ちょっと流行ったと思うのですがセミリタイア的な感じですかね。業務、マネジメントも含めて全て経営者と社員に任せる。だけどオーナーとして見守るという関わり方。これはいいなと思いました。

 

清水

会社の中で働き続けるのではなくて、外から見守るということですかね?

 

新部氏

そうですね。そこから逆算したときに何が必要なのかという問いを自分に立て、試行錯誤しました。

 

清水

なるほど。2社目の起業のときに、売却するまでにどういうことを考えて何をしてきましたか?

 

新部氏

イメージが明確にあって、電化製品には必ず分厚い取扱説明書ついてくると思います。会社や事業にもそういうもの、つまり、これを読んだらすべて回せる、再現性をもって運営することが出来る、そういう取扱説明書を作るイメージをしていました。

 

清水

いわゆるマニュアルみたいなものを、最初から意識して作っていたという感じですかね。マニュアルを作っている会社って結構あると思うのですけれど、単純にマニュアルだけでは経営者の思った通りにならないケースが多いと思うのですが、他にやられたことってありますか?

 

新部氏

マニュアルを作ること自体を評価することが重要かなと。マニュアルを自分で改善し、他の人にもより良い業務を広めたことを評価項目に入れました。あとはマニュアルを作るのは、通常の業務が終わったら、空いた時間でやってね、みたいな会社が多いと思いますが、マニュアル改善のための会議体に向けて必ずアウトブットを用意してもらう。これらにより組織と社員個々の動きが有機的につながることを意識しました。

 

清水

なるほど。マニュアルを作る仕組みを取り入れたということですかね。マニュアル作るのは全社員でやったのでしょうか?

 

新部氏

そうですね、総務のアシスタントからデザイナーやエンジニアまで全員にやっていただきました。

 

清水

じゃあみんなが自分でやっている業務をマニュアルにするということですね。細かなことなのですけど、文章にするのが上手い人と下手な人って結構ばらつきがあったりすると思うのですけれど、そういうのでマニュアルの統一感が出ないみたいなことはなかったのですか?

 

新部氏

おっしゃる通り、ライティング能力は結構バラつきます。ただ、書き方やフォーマットを試行錯誤して、経営陣で決めて、それ通りに書いてもらえれば一定の品質は保てますね。

 

清水

マニュアルとか仕組みがあることで、1回目と2回目の売却の時は違った面もありましたか?

 

新部氏

そうですね、買い主候補からの質問が大幅に縮小できました。デューデリジェンスでは、事業そのものから法務、財務、労務など、幅広く対応しなくちゃいけないのですけれども、業務については全てこれに入っていますと、マニュアルを渡せばそれでほぼ終わります。あと実際に読んでいただくと再現性があるということを実感していただけるので、より買収意向が高まっているという話を仲介会社からもお聞きました。

 

清水

ありがとうございます。次に、今のコンサルティング業について、伺いたいのですが、会社売りたいという経営者の方がいたときに、どういう点に着目して、どういうアドバイスをしていくのか、その流れみたいなのがあれば教えてください。

 

新部氏

簡易的手法ではありますが、直近の決算書で今の売却価格を出します。そうすると、期待していたより低いということのほうが多いのです。さらにイメージしている売却金額をお聞きして、そこに近づくにはBSやPLがどういう状態になっていれば、いいのかを擦り合わせします。

その上で金額のギャップを埋めるための課題はこうで、課題に対して解決策はこうでという形で進めていきます。

 

清水

売却価格が想像より低いという一番の理由は何でしょうか?

 

新部氏

そうですね、年商はそこそこあるけれども、利益率が低くてあまり純資産がなかったりとか、営業利益率もそこまで高くなかったり。そうすると評価基準からするとどうしても低くなってしまうわけです。

 

清水

利益率が低い場合って商品とかサービスから変えていかないといけないわけですよね。根本的なことからやっていく感じですかね?

 

新部氏

そうですね。2つあると思います。
1つはコストダウンの視点。特にネットのツールを使えば、外注費や人件費やなどを圧縮できる場合が多いのですが、導入していなかったり、ご存知でないケースが多いです。

もう1つは、利益率を上げるとしたらビジネスモデルを少し変える必要があるので、最近で言うとサブスクリプション型のビジネスモデルを取り入れるなどですかね。いきなり全てに手をつけるというわけにはいかないと思うので、徐々にそういったポートフォリオに変えていくことですね。

 

清水

そういったコンサルティングをされていく中で1番難しい部分というか、1番抵抗が出る部分っていうのはどの辺ですかね?

 

新部氏

そうですね。やっぱりネットのツールに対する抵抗というのはあります。
中小企業の場合、ご自身の営業力や人的ネットワークを中心に運営されているケースも多いのですが、そんな簡単にネットで代替できるわけがないという思い込みがあります。

たとえば、電話で仕入れ先から聞いた情報を、これまた電話で販売先に伝えたりする伝言ゲーム状態になっていることがあります。代替できるネットツールを導入していれば自分を飛び越えて情報が伝われば、その圧縮した時間で別のお客さんを開拓できる。そのようなことを理解頂けるまでに少し時間を要するのかなとは思いますね。

 

清水

逆に、高値で売れる会社にするにはやっぱりいくつかポイントがあると思うのですけれど、挙げるとすればどんなところになりますか?

 

新部氏

2つあります。

1つは、日頃からルールに則り、健全な体質である純資産と健全な運営を表す純利益を創出することに他なりません。どんな会社にも共通する普通の尺度です。売却価格の算定するための計算方法は20種類前後ありますが、元となる数字の大部分は営業利益や純利益です。

もう1つはプレミアムを上乗せすることです。これは相手にシナジー価値があるかという話なので、例えば化粧品を売っている会社がメディアを買いたい場合は、メディア訪問者に化粧品を売れるシナジー効果を期待できます、これがプレミアムのイメージです。ただ買い手にとっては、新しい事業になるので、再現性があって自分たちでもできそうだと思ってもらえるかが重要なので、仕組みがあって、どのボタンを押せばどうなるのか、ということがしっかりとプレゼンテーション出来れば、高値で売却できる確率が高まるというところですかね。

 

清水

なるほど。プレミアムは要するに、買い手が誰かによってかなり変わってくるということですかね。買い手に合わせて見せ方を変えていかないといけないということですかね?

 

新部氏

買い手が欲しがっている価値を見極める、その仮説を持つということが重要です。相手は買収目的を明らかにしないこともあるので、買収したら御社にはこういうシナジーがありますねという仮説をぶつけて反応を見てみる。相手に高値を主張できる根拠の1つを探ります。その上で見せ方を工夫するという感じです。

 

清水

ありがとうございます。最後になりますが、実際3件売却されて、売却できるような会社を作るメリットというのは?

 

新部氏

経営者って高齢になるまで同じ会社を経営されるのがこれまでのイメージだと思うんです。社長も普通の人間ですからライフステージが変わると思うんです。結婚だったり、お子さんが出来たり。逆にお子さんが巣立って自由な時間が増えるとか。そんな中ライフステージに対応して、全く何も仕事をしない余白期間があっていいんじゃないかと考えています。

新しいことを始める時、一般的には今のことをやりながら別のことに片足突っ込むみたいなやり方をされる方が多い思います。

私は終わりを終わらすということを意識し、手元を空けて白紙にしてから新しいことに取り組む方がこれまで上手くいきました。ここは人それぞれかもしれないですね。

またビジネス面では想像しているより世の中の変化が速いので、次の成長ステージを見据えた時に自分の力の無さを認めて手放すとか、傘下に入って十分なリソースがある環境に植え替えるなど、他の方にお任せするほうが賢明な選択であることもあるんじゃないかなと、私は思っています。もちろん、そこは譲れないという人も多いかと思います。

 

清水

かなり多いでしょうね、許せない人。ただ、いざ売らないといけないっていう状況になってから売るよりか、あらかじめ売る準備しといたほうがいいっていうことですよね。

 

新部氏

売らなくちゃいけないっていうときは、はっきりいうと多分売れないですよね。その状況になっているときは恐らく内部環境、外部環境共に不利になっていると思うんで。

2回目の起業仕立ての頃も、株式上場や会社売却も多少なりとも意識していたのですが、いつそういう意思決定をすることになったとしても物事を動かせるように日頃から準備しておくことが重要かなと。

 

清水

日々選択肢を持っておくということですかね。確かに、売れたきゃ売れるし、続けたきゃ続けられるし、いい状況ですよね。

 

新部氏

そのうえで続けたければ続けたらいいと思います。

 

清水

そうですね。今日はありがとうございました。