お客様は神様

「お客様は神様です」は誰が言ったのか?本当の意味とは?



清水直樹
「お客様は神様です」とは日本の接客業において良く使われるフレーズです。本記事ではこの言葉を使ったのは誰か、本当の意味は何かを見ていきたいと思います。

 

三波春夫が言った「お客様は神様です」の本当の意味

三波春夫が「お客様は神様です」というフレーズを初めて使ったのは、1961年(昭和36年)のある地方公演の際のことでした。当時の対談の中で、司会の宮尾たかし氏から「三波さんは、お客様をどう思いますか?」と問われ、三波は「お客様は神様だと思いますね」と答えました。

この一言が大反響を呼び、その後の公演でも同様のやりとりを求められるようになりました。さらに漫才トリオ「レツゴー三匹」がこの場面を見て大いに広め、「お客様は神様です」というフレーズが世に広まっていったのです。

三波氏の言葉の本当の意味

しかし三波自身は、このフレーズが商業主義的に使われるようになったことを危惧しており、真意とは次のようなことでした。

  • 舞台に立つ時は、神々しい気持ちでまっさらな心でなければならない
  • 歌手として観客の心を掴み、喜ばせることが使命である
  • 舞台を観に来て料金を払ってくれる観客は「絶対者の集まり」
  • お客様を敬う気持ちから「神様」と表現した

三波は歌手として観客を喜ばせることに人生を捧げ、常に新しい芸を追求する「求道者」のような生き方をしていました。その心構えの現れが「お客様は神様です」という言葉につながったと三波自身は説明しています。つまり商業主義とは全く違う、芸と観客を尊重する気持ちが込められていたのです。

松下幸之助氏が言った「お客様は神様です」の本当の意味

もう一人、お客様は神様です、という言葉で知られている人物がいます。それが経営の神様ともいわれる松下幸之助氏です。幸之助氏は海外に行った際、ある会社の経営者が「わが社はお客様は神様と考えている」と発言したことを印象深く覚えていました。そこでその言葉を対談等で使ったのです。

松下幸之助氏の言葉の本当の意味

ただし、幸之助氏は、お客様は神様です、という言葉を次のように解釈していました。

お客様を神様と呼ぶと、企業は顧客の要求を絶対的なものととらえ、盲目的に従う必要があるかのように受け取られがちです。しかし、顧客の声に耳を傾けすぎると、本当に顧客が求めているものを見失う可能性があります。なぜなら、

  1. 顧客は自分の欲求をうまく言語化できないことが多い
  2. リサーチで得られるのは現在の顧客ニーズであり、新しいイノベーションの芽を摘んでしまう
  3. 一部の顧客の声に惑わされ、本当に大切なことを見落とす

このように、顧客の声をそのまま神のように崇め過ぎると、かえって顧客満足度が下がる恐れがあります。

お客様は王様

また、お客様は神様、ではなく、お客様は王様と考えようとも発言したともされています。

「お客様は王様」と位置付けることで、顧客を敬うものの、一方的に顧客の要求に従うのではなく、時には顧客の意見に異を唱えたり、諫言したりする姿勢が重要になります。つまり、顧客を徹底的に尊重しつつも、企業は主体的に顧客をリードし、新しい価値を提供する必要があるということです。これによって、王様であるお客様が暴君ではなく、名君になるように導くことが販売者の役割と考えたのです。

顧客と企業はパートナーであり、お互いに影響を与え合う関係です。顧客の声に耳を傾けつつ、企業は自らの判断と責任で最適なものを提供し続ける必要があり、そのバランスが大切だと松下幸之助氏は説いていたと考えられます。

「お客様は神様ではない」という主張について

近年、カスタマーハラスメント(カスハラ)と呼ばれる顧客からの理不尽な要求が横行し、社会問題となっています。これにより、「お客様は神様」という古くからの言い回しが見直される中、おもてなし文化についての考察が求められています。

一方、企業間の競争が激化する中で、過剰なおもてなし合戦も問題視されています。顧客離れやSNS上での悪評を恐れた企業が、顧客を神様のように扱い、従業員の安全や健康を犠牲にする傾向があります。

政府や企業側もこの問題に対処するため、様々な対策を講じています。厚生労働省が企業向けの対策マニュアルを作成し、労災の認定基準にカスハラを新たな類型として追加するなど、対応が進められています。

お客様との関係を良好にするために

以上、お客様は神様です、という言葉について見てきましたが、これを踏まえて、お客様との関係を良好にするために何をすべきかを見ていきましょう。

理不尽なことを言ってくるお客様は切る

お客様に過剰な権威を認めすぎると、理不尽な要求や傲慢な振る舞いにつながりかねません。そういったお客様に対しては、きっぱりと対応を断る勇気が企業側に必要です。相手の非常識な言動を許容し続けることは、結果的に他のお客様の迷惑にもなります。従業員が不当な要求を丁重に断れる環境づくりが大切です。

自社の理想の顧客像を明確にする

すべてのお客様を等しく神様視するのではなく、自社が理想とする顧客像を明確化する必要があります。例えば、商品・サービスの価値観を理解し尊重してくれる顧客、長期的な信頼関係を構築できる顧客などが該当します。顧客に合わせるのではなく、顧客が自社に合わせてくれることを期待できる関係を目指すべきです。

その理想の顧客像に向けたメッセージを創る

理想の顧客像が定まれば、そうした顧客に向けたメッセージ戦略を構築します。単に売り込むのではなく、自社の価値観や想いを伝え、共感を呼ぶコミュニケーションが重要です。そうすれば自然と、自社のファンになってくれる顧客層が形成されていくはずです。

社員を教育し、専門アドバイザーとしての知識や態度を身に付けさせる

お客様と対等に向き合うには、社員一人ひとりが高い専門性とアドバイザーとしての自覚を持つ必要があります。単なる販売員では不十分で、商品・サービスの知識はもちろん、顧客心理や対人コミュニケーションスキルまで身に付けさせる研修を重視すべきです。そうすれば、お客様に価値あるアドバイスを提供できるようになり、対等な信頼関係が構築できるはずです。



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