経営と仕事の優先順位「戦略的フォーカス」
私たち「仕組み経営」では、その時々に集中すべき分野を「戦略的フォーカス」と呼んでいます。
戦略的フォーカスとは、ビジョンを達成するために、あなたの注意とリソースを集中させる場所(活動やシステム)のことです。戦略的フォーカスは、会社のステージや戦略、市場環境によって異なり、定期的なレビューと改定が必要です。
ビジョン、戦略、戦略的フォーカス
ビジョンとは、会社が5年後、10年後、または20年後に向かう目的地です。戦略とは、ビジョンにどのようにしてたどり着くかを示す道で。そして、戦略的フォーカスとは、戦略のうち、現在注力すべき、もっとも大切な部分を指します。
戦略的フォーカスは、会社の成長ステージによって変化します。ビジネスは仕組み(システム)の集合体であり、それぞれが関係しあっています。しかし、だからといって、すべての部分が同じように大切、というわけではありません。
優先順位は会社のステージによって異なる
会社のステージや戦略によって、成功するために決定的な大切な部分というのは異なっています。そして、その決定的に大切な部分が戦略的フォーカスになります。そこにあなたの時間、注意、リソースを割くことがビジョン達成に向けて欠かせません。
たとえば、会社をスタートして初期の段階では、会社を安定させられるだけの資金を得る必要があります。次のステージでは、商品開発やデリバリーが重要になり、さらに次のステージでは、新しい市場に参入すること、競合と戦うこと、マーケティングなどが戦略的フォーカスになるでしょう。
優先順位は常に明白とは限らない
問題は、優先順位、つまり戦略的フォーカスが常に明白だとは限らないことです。あなたはもっとも大切に見えるものに時間と注意を注いでいるかも知れませんが、実はそれが間違っているかも知れないということです。
戦略的フォーカスを誤った例)
企業向けにサービスを提供している会社が、商圏を全国に広げようとしていた。これはとても大きな機会であり、そのため、CEOは、マーケティングと商品開発にフォーカスをおいていた。
彼女はサービスを7つのバージョンに拡大し、新規顧客を獲得するために、インターネット広告やダイレクトメールなどの新しいチャネルにも手を出した。
しかし、彼女はあまりにも多くのことに手を出していたため、会社から現金が流れ続けていた。実のところ、会社はすでに破産間近の状態にまでなってしまった。当時、彼女の戦略的フォーカスは、マーケティングや商品開発よりも、現金の管理と資金調達だったのである。
もっと賢い方法は、商品のバージョンを1つか2つに絞り、複数あるチャネルの中から、もっとも効果が良いチャネルを探すことだったのだ。そして、安定したキャッシュフローをつくり、そこから新しい商品開発やチャネル開拓の資金を捻出することだった。
全てを同時に得ることはできない
“すべてを得ることが出来る。しかし、それは一度にではない。”という言葉があります。
もしかしたら、すべてを同時に出来るかも知れないが、普通は出来ません。戦略的フォーカスは現在の会社の強い点を最大化するものであるか、弱い点を最小化するものである必要があります。
経営と仕事の優先順位を決めるときの8つの盲点
優先順位を決める方法をご紹介する前に、優先順位を誤ってしまう原因を探っていきます。
大半の経営者は、何にフォーカスすべきかを既に知っていると思っていますが、物事はそう簡単ではありません。経営者にとっての盲点がいくつか存在し、戦略的フォーカスを間違ってしまうことがあります。
以下に示すのは、経営や仕事の優先順位を決めるときの8つの盲点です。
1.癖や惰性
- “いつもこの部分を強調してきた。”
- “上手く行っているから続けよう。“
という考え方。未来が過去の延長線上にあるとは限りません。
2.間違った情報、情報不足
- “どの部分が大切かはっきりしないから、とりあえずいまのまま続けよう。“
という考え方。これも意思決定を放棄することにつながります。
3.好き嫌い
- “これをやるのが楽しくて好きだから、力を入れよう。“
という考え方。好き嫌いは確かに大事ではありますが、経営は外部環境の変化も考慮に入れて意思決定をしなければいけません。
4.快適空間
- “この部分が得意だから力を入れよう。“
という考え方。いわゆるコンフォートゾーンにとどまったままの状態です。
5.説得
- “税理士がここが大切だと言ったからそれに従おう。“
という考え方。外部のアドバイスを得ることは大事ですが、盲目的にそれに従っていては、経営者としての重要な仕事である意思決定を怠っていることになります。
6.業界常識
- “競合はみんなこのようにやっているから、それに従おう。“
という考え方。競合と同じことをやっていては、常に後追いを強いられるだけです。
7.日々のプレッシャー
- “いま問題が起きている部分に対処しよう。”
という考え方。これはもぐらたたき状態であり、物事の根本的な解決につながらず、同じような問題が次々に起こります。
8.優柔不断
- “全部重要だ。全部やる方法を見つけよう。“
という考え方。これも意思決定の放棄と言えます。
盲点を認識して優先順位を決める方法
あなたの考えがどれかに当てはまっていても安心してください。ほぼ100%の経営者がいずれかの考え方に偏向しています。あなたもこれらの盲点に当てはまっていないかどうか、確認してみましょう。そして、盲点を無視せず、頭の中に留めておくようにしましょう。
以下のような質問を自問してみると良いでしょう。
- 優先順位をつけるのに、いつもの考え方で取り組んでいることはあるだろうか?
- 優先順位をつけるのに、十分な情報はそろっているか?それらは正しい情報か?
- ビジネスや仕事の中で、好きな部分と嫌いな部分は何か?それらの好き嫌いによって、優先順位が左右されていないだろうか?
- ビジネスや仕事の中で、心地よい部分と不快な部分はどこか?それらがどう優先順位に影響しているだろうか?
- 意思決定に影響を与えている人物はいるだろうか?それがどう優先順位に影響しているだろうか?
- みんながやっているから、常識だから、という理由でやっていることはないだろうか?
- 日々のプレッシャーが大きすぎて、思考が混乱したり、妨げられていることはないだろうか?
- どれもが重要だ、と周りの人に言ったことはあるだろうか?それは真実だろうか?
現在の優先順位「戦略的フォーカス」を定めるステップ
では最後に、現在の優先順位「戦略的フォーカス」を定めるステップをご紹介していきます。
1.ビジョンを見直す
まず会社のビジョンを見直しましょう。どこに行きたいのかがわからなければ、優先順位を決めることが出来ません。ビジョンがすでにある方は、ビジョンを見直しましょう。もちろん、ビジョンは簡単に変えるべきではありません。しかし、あなたがビジネスについて詳しくなり、可能性や限界について理解するにつれて、ビジョンは拡張されたり調整されることがあります。
次の質問について考えてみましょう。
- 当初の想定や仮定はまだ正しいか?新しい想定や仮定は必要か?
- ビジョンは十分に深く、細かいものになっているか?全体像を描写できているか?付け足すもの、削除するものはないか?
- ビジョンや指標は整合性や一貫性が取れているか?
- ビジョンはやる気を生み出すものになっているか?それに対して本当にコミットメントできるものになっているか?
2.現在の計画を見直す
ビジョンと同じように、現在取り組んでいることや計画を見直してみましょう。
- 当初の想定や仮定はまだ正しいか?新しい想定や仮定は必要か?
- 計画はビジョンと一貫性があるか?ビジョンをサポートするものになっているか?
- 予算計画や予測は、合理性があり、達成可能か?
- 計画のスケジュールは妥当か?
- 計画に対して、本気でコミットしているか?
- 社員は計画に対して、本気でコミットしているか?もししていないのであれば、どうすれば良いか?
3.ビジネスのニーズを検討する
会社の中でのある活動や、ある仕組みは、レバレッジがかかり、結果に影響を与えます。そのような活動やシステムをレバレッジポイントといいます。戦略的フォーカスは、レバレッジポイントを最大限活用できるように設定しなくてはなりません。
ネガティブなレバレッジポイントをリストする
会社の中で、ネガティブな影響を与えるレバレッジポイントを5~10リストしてみましょう。すなわち、現在、その部分がうまく機能していないために、顧客にとって、自社にとってネガティブな影響を与えている活動やシステムを挙げてみましょう。
ポジティブなレバレッジポイントをリストする。
逆に、会社の中で、ポジティブな影響を与えるレバレッジポイントを5~10リストしてみましょう。すなわち、その部分はうまく機能しているが、さらに改善すれば、顧客にとって、自社にとってポジティブな影響を与える活動やシステムを挙げてみましょう。
4.戦略的フォーカスを定める
3でリストしたもののうち、もっともニーズが高いもの、またはもっとも機会が大きいものを1つか2つ選択しましょう。それが現時点において、優先順位が高い活動になります。1つか2つに絞り込むためには以下の2軸で考えると良いでしょう。
横軸は実行が容易かどうか?縦軸は顧客にとって、自社にとって価値があるかどうか?
このマトリックス上に、「3.ビジネスのニーズを検討する」でリストアップした項目をプロットしてみましょう。
マトリックスの右上に当てはまるものが優先順位が高いものです。
優先順位が高い活動を確実に実行するには?
仕組み経営では、いまご紹介したような優先順位の決め方も含め、ビジョンに達成に必要な仕組みづくりをご支援しています。詳しくは以下からご覧ください。