組織開発

組織開発とは一体何か?【誌上セミナーvol.4】



清水直樹
組織開発とは、組織内の人々の関係性やプロセスを改善して、組織全体の効果的な運営や成果を向上させる試みを指します。本記事では、マイケルE.ガーバー氏が過去に行った講演内容の中から、特に中小企業のオーナー向けに、組織開発の方法についてご紹介していきます。講演が行われたのは1980年代~1990年代と古く、使われている例や言葉も古いですが、内容は今でも普遍的です。ぜひお役立てください。
マイケルE.ガーバー氏・・・世界700万部のベストセラー「はじめの一歩を踏み出そう」の著者であり、世界No.1の中小企業アドバイザー(米INC誌による)に選ばれた。当サイト「仕組み経営」のもとになっている思想を提供してくれた人物。詳細はこちら>>
(以下、1980年代のマイケルE.ガーバー氏の講演内容)

サマリー

  1. 組織開発には、組織図の作成が重要であり、これを通じて組織の機能や構造を再評価することが必要。従来の担当者に焦点を置くのではなく、機能やシステムの観点から組織を捉え直すこと。
  2. 組織図を作成することで、従業員がどの程度戦略的な業務に取り組んでいるかを把握し、戦略的仕事と戦術的仕事のバランスを確保すること。戦略的な業務に集中することで、組織の成果を最大化することができる。
  3. 組織図を作成することで、マーケティング、運営、財務などの各機能のバランスを保つことが重要。

組織開発は組織図から

組織開発は、組織図の作成から始まるのが常である。しかし、中小企業のオーナーに組織図の作成を要請すると、しばしば理解されないことがある。では、なぜ組織図が必要なのだろうか。

組織開発の作業を通じて、自社を新しい視点で見直すことが求められるのである。担当者ではなく、会社全体の機能を見直すことが重要である。

まずは、一般的な組織図の例を取り上げ、どんな事業にも適用可能な標準的な組織図を紹介しよう。

組織の最初のボックスを描く

では、組織図の最初の枠に取り掛かろう。これはヒエラルキー構造である。一般に言われているマトリックスマネージメントではなく、会社が機能する上でヒエラルキーが必要であることが分かる。

最新の手法を紹介するのではなく、実践的な方法で高い目標を目指す方法を伝えたいのである。

最初の枠、すなわち組織図の一番上、中央には社長のポジションがある。呼び方は会社によって異なるかもしれないが、重要なのは皆のボスである。ビジネスにおいては、トップは1人であるという原則を理解しておきたい。

次に、通常、社長に報告するのは3つの部門である。これらは会社によって多少の違いがあるかもしれないが、どんな会社にも通じる必要な機能について話そう。左側の枠はマーケティング、中央はオペレーション、右はファイナンスである。

これらの枠には各担当者の名前を書き込んでほしい。それぞれの会社でこれらの機能を担当しているのは誰であろうか?

次に進もう。マーケティングの下に3つの枠を描く。左側の枠には販売、中央の枠にはカスタマーサービス、そして次の枠には広告を入れよう。

財務部門についても同様に進めよう。財務の下に3つの枠を描いてみよう。最初の枠は会計、2番目は運営、そして3番目は情報システムある。それぞれの枠に担当者の名前を書き込んでみよう。

ここで、「担当者の名前を全て書く暇がない!」という声が聞こえてくるかもしれないが、問題としているのは人ではなく機能である。

人ではなく機能の組織

質問させて欲しい。あなたの会社でマーケティング機能を担当している方はいるだろうか?会社でオペレーション機能を担当している方はいるだろうか。財務機能を担当している方はいるだろうか。販売機能を担当しているだろうか。同じように、カスタマーサービス、広告宣伝、会計、アドミニストレーション、情報システムの機能を担当している人はいないだろうか。

そう、もしあなたに部下がいてもいなくても、たとえ、あなたが一人で会社をやっているとしても、これらの機能は、どれも、どんな会社にも必ずある機能である。専属の担当者はいないかも知れないが、誰かが担当している機能なのだ。

自分が何をしているかを知る

では、枠に名前を書き込んでみよう。ここで何に気づくだろう。

組織開発プロセスの第一の価値は、社内での自分の位置づけを知ることにあるのだ。大抵の人は、自分が担う役割の多さに驚くだろう。どれだけ多くの役割を担っているか、気付いただろうか。しかし、問題はあなたがその役割を正確に果たし切れてないことにある。つまり、機能不全に陥っているのだ。ここでまたこう言うかも知れない。

「ちょっと待って。仕事なら一生懸命やっていますよ。働きづめに働いて、忙しくてたまらない。来る日も来る日も朝から晩までずぅっと働き通しですよ。」と。

そんなあなたにやって欲しいことがある。今日から2週間、毎日、記録を付けてみて欲しい。これから2週間程度、毎日、会社に出社から退社までの記録を付けて欲しい。自分がやった仕事を逐一記録すること。

それから、自分が組織図のどの位置でその仕事をやったのかを識別してみよう。分かるだろうか?会社でやった仕事を分刻みで記録してみよう。何かやる度に、その都度記録する。そして、その仕事を組織図の、どの位置、どの役割に立ってやったのかを判別する。これを試して頂ければ、あなたはきっと目が覚める体験をするだろう。

あなたは自分が会社でいかに多くの仕事をしているか、どんなに一生懸命働いているかを理解しているつもりになっている。しかし、いま言ったことをやってもらえれば、その考えを吹き飛ばすようなことが理解できるだろう。

この作業を行えば、自分が実際にはどこで時間を過ごしたかが分かる。そうしたら、自分がどれだけ膨大な時間を無駄に過ごしているかがわかってしまうのだ。

あなたは組織のどのポジションで働いているか?

さて、では、前の話に戻ろう。

あなた自身が、営業の仕事をしているときを考えてみよう。このとき、あなたがしている仕事は、組織図の中で言うと、どのポジションの仕事だろうか?あなたは現場で営業の仕事をしている。つまり、通常、あなたの上には営業部長がいて、その上には、マーケティング担当副社長、さらにその上には社長兼最高執行責任者がいる。

あなたはオーナーではなく、営業担当者の仕事をしているのだ。分かるだろうか?あなた自身が営業の仕事をしているとき、あなたは自分の会社で、いち営業担当者として働いていることになる。

このように考えてみると、あなたが一日を、組織図のどのポジションで時間を過ごしているのかがわかるだろう。あなたは組織図のてっぺんで働いている時間が多いのか、または、組織図の底辺で働いていることが多いのか?



実際のところ、大抵のビジネスオーナーは、組織図の底辺で多くの時間を使っている。すなわち、オーナーではなく、いち担当者として、働いているのである。

あなたがしなくてはならないのは、組織図の底辺から抜け出して、あなたが本来属しているはずの、組織図の頂点に立って仕事をするということだ。

戦略的仕事と戦術的仕事

あなたの会社であなたが過ごす時間の90%は、戦略的仕事に使うべきである。たとえ小規模な企業でも、あなたの時間の90%は戦略的仕事に向け、戦術的な仕事は10%に留めるのが理想である。組織図の中ほどにいる人は、60%が戦術的仕事、40%が戦略的仕事とすべきだ。そして、組織図の底辺では、90%が戦術的仕事、10%が戦略的仕事となるのが理想だ。

さて、組織開発についてまとめておこう。ここで大切なのは、ビジネスを機能面から捉えるように習慣をつけることだ。人に依存した組織ではなく、機能、そして仕組みをベースに組織を作るのである。

理解できただろうか?

徐々にフルタイムのスタッフを入れていく

さて、あなたに簡単な組織図を作ってもらった。マーケティングと運営と財務。次が、セールスとカスタマーサービスと広告調査だった。運営の要素は、ビジネスによってまったく異なるので扱わなかった。財務セクションでは、会計と運営とマーケティング情報システムについてお話しした。そしてお手元のボックスに名前を書くようにあなたにお願いした。自分のビジネスにおいて実際にいくつの業務があるか分かってくると、ビジネスで苦労している理由が手に取るように明確になる。ビジネスにおいて苦労するのはやるべきことが多すぎるからだ。

それらは、行わなければならない重要事項だと理解していただきたい。ビジネスにおいてマーケティングはフルタイムの業務でなくてはならない。ビジネスが成長し、ビジネスの可能性を実現するために、マーケティングはフルタイムであるべきなのだ。パートタイムではない。

エネルギーに満ち、非常に才能に恵まれ、有能で、計画的で、きちんとした人があなたのために、その神経の全部をマーケティングに注いでいると想像してほしい。その人はマーケティングに完全に集中している。1日の8時間、1週間の5日か6日の間、全神経を集中している。マーケティングに全神経を集中している。その場合のインパクトが想像できるだろうか?

もちろん、最終的にそのインパクトを生むためのシステムが存在することが前提だ。あなたのマーケティング要員が全神経をマーケティングに集中させ、ひたすらに作り上げたらどうなる。圧倒的にクリエイティブなものを作り上げたらどうだろう?

人に依存させないこと

このとき、問題は何か? 問題は、そのマーケティング担当が辞めてしまったら、新しい人を見つけなくてはならず、その人は完全に違う考え方をするということだ。それが人間が本来やることだ。人は常に他のみんなとは違う考え方をするのだ。

したがって、あなたのビジネスが継続的に成功するためには、マーケティングの仕組みを築く必要がある。

次に、運営部門に運営にのみ集中するフルタイムの要員がいたら、かけがえがないということが分かるだろうか? マーケティングの役目が、顧客に約束をすることだとしたら、運営はその約束を実現する責務を追うのだ。完全に運営に集中する者がいたら、どれだけのインパクトが生じるかを想像できるだろうか?

運営部門が専念しているのは、プロセスの改善だ。マーケティング部門が何を顧客に言おうとも、そのプロセスを経れば成功につながるようなプロセスだ。

最後に、ビジネスの財務的な健全性に完全に集中する者があなたのビジネスにいたらどうなるだろう。彼は、ビジネスの財務的な健全性に完全に集中しているのだ。

社長は3つのバランスをとる

マーケティングと運営と財務が3つの重要機能であるが、それを統合するのは社長である。社長こそが、ばらばらになろうとするこれら3つの力を統合するのだ。

3つの力はつねに互いに争っている。運営は、そんなに約束をするなといつもマーケティングに求めている。マーケティングは。もっとアグレッシブになれといつも運営に求めている。財務は、他の2つに対して、「何が欲しいのだ? これか?金か?なぜ自分のコストに目を向けない? なぜコスト超過に目を向けない? なぜ見積もりを行わない?」という。 財務はいつだって現実的なのだ。

この当然の対立があるのは健全な企業だ。ビジネスにおける問題とはその対立がないことだ。対立がないまま、急いで決定を下してしまう。勘や経験で決定を下してしまう。組織図があれば、このことが図的に把握できるだろう。この対立は重要なのだ。ビジネスの組織化とは、実をいえば対立を組織することだ。仕事を見きわめることであり、これらの主要機能間の対立を組織することだ。

会社の中と外を分ける

さて、この組織図上でして欲しいのは、一番上のボックスの上に水平の線を引くことだ。上にスペースが残るように水平線を引いて欲しい。そこに書いてもらいたいことがあるからだ。社長のボックスの上に水平線を引くのだ。これによって、会社の中と会社の外をはっきりさせて区別できる。ボックスの上の全部が会社の外だ。ボックスの下の全部が会社の中だ。

線の上に大きく太く「オーナー」と書いていただきたい。「オーナー」だ。さて、ここでひとつのルールをつくろう。ビジネスにおいてあなたが作業を行うなら、その線より下にいくならば、あなたはもはやオーナーではない。あなたは従業員だ。これがルールだ。

オーナーはビジネスの外だ。ビジネスの中に入ったら従業員になる。例えば、あなたが何者なのかを誰かに聞かれたとき、あなたは答える。「私は社長だ」あるいは「私はマーケティング担当副社長だ」と答える。しかし「私はオーナーだ」とは言えなくなる。「ビジネスの所有者だ」とは言えない。あなたは自分をオーナーと考えることはできなくなるのだ。

組織のルールを作る

さて、組織開発のための3つのルールを挙げる。

最初のルールは「関係性のルール」と呼ばれる。「関係性のルール」だ。2番目のルールは「オーナーシップのルール」と呼ばれる。3番目のルールは「エンプロイーシップ、従業員のルール」と呼ばれる。

ビジネスはゲームだ。ルールがなかったらゲームはできない。ルールがなかったらどんなに馬鹿げたことでも自分の好きなことを主張できてしまう。限界、範囲、権限、責任を明らかにするルールであり、ゲームにおいて許されることと許されないことを明らかにするルールが必要だ。

関係性のルール

「関係性のルール」はすべてに優先する。例を挙げよう。「人前で私を困らせないで」と妻があなに言ったことする。

つまり「人前で私を困らせないで」がルールだ。これは何とも幅の広いルールで、あなたはつべこべ言うかもしれない。しかし関係性を保つならば、ルールを確立するために自分の自由を諦めるのだ。



どうしたら人前で妻を困らせることになるだろうか? 例を挙げよう。なにかをして妻を困惑させる。痛みをもたらす何かだ。例えばあなたは「それは君には関係ないだろう」とか言うことができる。しょうもない心理がそれを言わせるのだ。このときあなたは妻の心の痛みを感じ取るだろう。妻の心の痛みを感じ取る気持ちこそが、関係というものの本質なのだ。関係とは理解なのだ。

同じように会社でも、関係性のルールが必要だ。上司と部下の関係、同僚同士の関係を確立することだ。

オーナーシップのルール

それでは「オーナーシップのルール」とは何であろうか?

次のように想像してみて欲しい。ビジネスの拡大を望む1人のパートナーが世界的な展望を持っている。別のパートナーは地元で展開できれば良いと考えている。あるパートナーはもうひとりのパートナーよりずっと起業家精神に富んでいる。1人のパートナーは壮大な目標を持っており別のパートナーはそれほどでもない。皆が不満を抱えてしまい対立は避けられない。

だからあらかじめそれを考えておく必要がある。オーナーシップについて考えておく必要がある。パートナーの1人が死んだらどうするのか? 14歳の少年をパートナーにするのか? それとも死んだ者の妻や夫をパートナーにするのか? ビジネスを始めるまえにこうしたことを考えておく必要がある。「オーナーシップのルール」は極めて重大だ。「オーナーシップのルール」がなかったら何も行えないし起こらない。少なくとも「オーナーシップのルール」により、合意したゲームが確立することになる。

現場で働くなら現場のルールに従う

もうひとつの「オーナーシップのルール」は、私たちがオーナーとしてどう働くかについてのルールだ。そして、それが「エンプロイーシップ、従業員のルール」になる。会社の現場で働く場合には、「従業員のルール」に沿って働かなくてはならない。「オーナーシップのルール」とは、ビジネスのなかに入っていったらもはやオーナーではないということだ。エンプロイー 、従業員なのだ。

自分がビジネスのオーナーだとするならば、私たちは2種類の立場を演じることになる。つまり、ルールに従って働く従業員としての立場と、オーナーとしてのルールを作る立場だ。オーナーとしてのあなたは、ビジネスのなかの人たち、つまり従業員には適用されないあらゆる種類のルールに従って働いている。

あなたがビジネスのオーナーでありながら、ビジネスの中に入って働くならば、他のビジネスのなかの人たちには、あなたがビジネスのなかのオーナーだと分かってしまう。

ビジネスのなかの皆のために作られた基準の内側でオーナーではなく従業員であるかのように業務を遂行したとしても、ほかの人たちは、あなたを別の立場の人としてみることになる。そこから発生する威厳や尊敬などに基づいて働くことは、褒められたものではない。そこで「従業員のルール」が必要になるのだ。ビジネスに入って行くまえに、そのルールに沿って働くことに対して、オーナーとして合意する必要がある。

従業員のルール

さて、従業員のルールとはどのようなものか。従業員のルールとは、例えば、ドレスコードのようなものだ。地位を確立するため、私たちは常に紺のスーツを着ているかも知れない。これが私たちの姿だ。

私たちは感情のままに服を着る。感情のままに語る。すべての物事を自分の直感で行っている。私たちが行うことのほとんどは、はっきりと意図せずに行っていることだ。

しかし、優れた会社は、それらのことを意図的に行っているものだ。

では、次のステップに進もう。

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