「手の切れるような製品をつくる」とは一体どういうことか?



清水直樹
京セラフィロソフィに「手の切れるような製品をつくる」という項目があります。今日はいったいそれがどういうことなのかを見ていきましょう。

京セラフィロソフィの「手の切れるような製品」

稲盛和夫氏が作った京セラフィロソフィには、「手の切れるような製品」という項目があります。

以下、引用してみます。

私たちがつくる製品は、「手の切れるような製品」でなくてはなりません。それは、たとえばまっさらなお札のように、見るからに鋭い切れ味や手ざわりを感じさせるすばらしい製品のことです。

製品にはつくった人の心が表れます。ラフな人がつくったものはラフなものに、繊細な人がつくったものは繊細なものになります。たくさんの製品をつくって、その中から良品を選ぶというような発想では、決してお客様に喜んでいただけるような製品はできません。

完璧な作業工程のもとに、一つの不良も出さないように全員が神経を集中して作業にあたり、ひとつひとつが完璧である製品づくりを目指さなければなりません。

機能だけでは不十分

この項目の解説で、以下のようなストーリーが語られています。

京セラが半導体パッケージの開発をしていた時、開発のリーダーがサンプルを稲盛氏に持ってきました。その際、稲盛氏は、「性能は特性を満たしているが、薄汚れているのでダメだ」と突き返したそうです。

開発リーダーは、性能は良いのになぜダメなのか?と食い下がりますが、稲盛氏は次のように説明します。

”本来、立派な特性を備えているものは、見た目も美しいものであるはずだ”

”触れれば手が切れてしまうのではないかと怖くなるくらい非の打ちどころがないものでなければならない”

ここで稲盛氏は、手の切れる、という言葉を使い、それをフィロソフィーに入れたわけです。

稲盛氏いわく、手の切れるような製品というのは、最高の品質を持った完璧な製品、だということです。

稲盛氏は、完璧主義として知られていますが、同様に、手の切れるような製品にこだわった起業家がいます。それがスティーブ・ジョブズ氏です。

スティーブジョブズも手の切れるような製品を目指した

スティーブ・ジョブズ氏も完璧主義で知られています。彼はデザインチームに対して、

  • iPhoneのアイコンは、ユーザーが画面をなめたくなるような魅力的なものにするように

さらに、

  • 近代美術館レベルの品質

を要求したそうです。

彼は、消費者の手に渡る商品は、伝説的なUXでなければならない。すべてのデバイスが完璧に機能しなければならない。そして、触れるものはすべて、息を呑むほど美しいものでなければならないと考えていました。

私が好きなエピソードでこんな話があります。

ジョブズに製品へのこだわりを教えたのは父親?

アップルが、iMacを開発しているときのこと。

iMacのデザインがほぼ完了し、デザインチームはジョブズにお披露目する機会を設けました。そこでジョブズは、次のようにチームに言ったと言われています。

”確かに外観は優れたデザインだが、内側がまだ駄目だ”

内側というのは、パソコンの中身、いわゆる基盤と呼ばれるものです。普通のユーザーであれば、パソコンの筐体を開けて基盤を見るなんてことはしません。しかし、ジョブズは、そこですら美しなければならないと伝えたのです。

するとデザインチームのメンバーは、

”内側なんて誰もみませんよ”

と当然の反応を示します。そこでジョブズは、次のように言うのです。



”確かにユーザーは見ないかもしれない。でも、我々は見るだろう?”

この言葉にジョブズの哲学が現れています。

実はこの言葉は、彼が幼少の頃、父親から受けた教育が基になっています。

ジョブズが小さい頃、彼の父親が、家の庭の壁をペンキで塗り、キレイにするように依頼します。ジョブズはいやいやながらも壁を塗り、父親に報告します。そこで父親はジョブズにこう告げました。

”まだ半分しか出来てないじゃないか。内側の壁がまだだ。”

ジョブズは街ゆく人から見える、壁の外側だけペンキでキレイにしていたのです。そこでジョブズはこう言います。

”内側の壁なんて誰にも見えないじゃないか”

父親は、

”でも我々は見るだろう?”

というのです。

この幼少期のエピソードがジョブズに大きな影響を与え、アップルのデザイン哲学に反映されるわけです。

ジョブズがスタンフォード大学で行った有名なスピーチがあります。この中で彼は、”connecting the dots(点を繋ぐ)”という話をします。これは、

  • 今やっていることが将来どこかで繋がり実を結ぶと信じること

さらには、

  • 今取り組んでいることに、過去の全ての経験を注ぎ込むこと

を意味しています。

ジョブズは父親からのちょっとしたお手伝いの経験も仕事に繋げたわけですね。

フェイディアスの教訓

ちなみに、スティーブ・ジョブズのエピソードと似たような話がピータードラッカーの「プロフェッショナルの条件」に出てきます。

こんな話です。

紀元前440年頃、ギリシャ彫刻家フェイディアスはアテネのパンテオンの庇に建つ彫刻を完成させたが、
フェイディアスの仕事の請求書に対して、アテネ会計官は

「彫刻の背中は見えない。見えない部分まで彫って請求してくるとは何事か」

と全額の支払いを拒んだ。フェイディアスは言った。

「そんなことはない。人々が見えない彫刻の背中は、神々の目が見ている。」

フェイディアスは、完璧な彫刻(製品)とは人々だけではなく、神々も見るもの、という哲学があったわけですね。

手の切れるような製品とはどのような製品か?

さて、このように、「手の切れるような製品をつくる」というのは、製品の完成度に対して非常に高い基準を持つことを指すわけです。

この言葉は京セラフィロソフィーの中でも私の心に深く印象に残っている言葉なのですが、一方、物理的な商品を売っているわけではない我々みたいな事業の場合(サービス業)、ここでいう”手の切れる”というレベルをどう捉えるか?ということを悩んでいました。

私たちの場合、製品はお客様に提供するコーチングや講座になります。また、いま読んでいただいているこういったブログの文章もいわば”お試し商品”にあたります。それはわかるのですが、”手の切れるような”というのはどのような基準なのかがいまいちピンと来ていなかったのです。



手の切れる=利がある製品

そのことが頭にありつつも、様々な勉強を続けていると、あるヒントが発見できました。

それは、「利」という言葉の成り立ちについてです。

手の切れるような製品

「利」という言葉は、「」(穀物)+「」()で成り立っています。これは、穀物を鋭い刃物で収穫することで、「するどい」という意味があるそうです。(穀物を刈り取ることで、儲けが生まれるので、利益という言葉にも使われます)

「するどい」、つまり”手が切れる”です。

となると、手が切れるような製品とは、”お客様にとって、「利」となる製品ではないか?”と考えました。

お客様にとって「利」となる製品、実はその考え方が私たちの”仕組み経営”にも存在します。仕組み経営では、6つの視点で商品(製品)を設計するというカリキュラムがあります。

この6つの視点を高い基準で設計することが、手が切れるような製品につながるのではないかと思います。

製品をつくる6つの視点

以下、6つの視点をご紹介します。

機能性

第一に機能性です。言い換えると、その製品のスペックや使い心地です。家具や服などの完成品であれば、その答えは明確だと思います。しかし、旅行や研修プログラムのような目に見えない商品を扱っているのであれば、その商品がどのような機能性を持っているのかをじっくり考える必要があります。

感覚的インパクト

その商品はどのように見えるか、感じるか、聞こえるか、味がするか、香りがするか?つまり、顧客の五感にどう訴えるのか?が感覚的インパクトです。たとえば、自動車と赤ん坊用の毛布を考えてみましょう。両者はまったく異なる商品であり、機能性も異なります。しかし、顧客に提供するべき感覚的インパクトは似ています。自動車は内装も外装も“新品に見える“ことが価値を高めますし、”新車の匂い“であることが望ましいわけです。赤ん坊用の毛布も同じように、”新品らしさ“が求められる商品といえます。

無意識の繋がり

無意識の繋がりとは、その商品または広告などが、顧客の無意識に与えるインパクトのことを指しています。有名な例で言うと、たばこメーカーのマルボロは、力強い男が嗜むたばこ、というイメージを訴えるために、カウボーイをCMで登場させました。

また、米国では、ベトナム戦争以後20年間は、男性向けに緑系の服を販売することは難しかったそうです。緑の服というのは、戦時中の迷彩服をイメージさせてしまうため、男性にとっては着るのがためらわれる色だったのです。そのため、メーカーは緑の服を作るのをやめてしまいました。

このように、ある色、ある匂い、あるビジュアルは顧客に無意識に影響を与えます。それも考慮して商品を創らなくてはならないわけです。

意識的結論付け

人はそれぞれ、どのような商品を好むか?が異なります。たとえば、実験志向の消費者がいます。彼らは、新しい、革命的な商品やサービスを欲する人であり、いかにその商品が新しいか?に注目して商品を選びます。一方、品質志向の消費者は、商品のパフォーマンスや信頼性、実証された品質などに注目します。また、価値志向の消費者は、価格に見合うだけの実質的な価値があるかどうかを重視します。

このように、人はそれぞれ、自分なりの理論で、商品の購入を正当化します。自社の対象とする顧客がどのようなタイプかを知り、彼らが好むように商品を設計する必要があります。

価格/価値

あなたの商品は、顧客の心の中で、一般的な商品(競合の商品)よりも“高い”、“安い”、“普通”のいずれかに分類されます。また、顧客が既に持っている、“この類の商品の相場はこれくらいだろう”という経験則によっても分類が行わます。自社の顧客がどのような価格帯を好むかを知ることが大切です。安ければいいわけではありません。たとえば、“ロープライスのレクサス販売店”と思われるのは必ずしも効果的ではないでしょう。

アクセス

普通の人は、アクセスしやすかったり、購入しやすいことを求めます。一方、アップルの新商品を買うために、並んで買う人もいますし、予約の取れないレストランで、半年後の予約をしたいという人もいます。彼らは手に入りづらいものを手にいれることに価値を感じるわけです。

これも自社の顧客が何を望んでいるかを深く理解することが大切です。

 

このように考えると、一般的に考えられている”機能性”だけでは、”手の切れるような製品”にはならないことがわかります。

ぜひこれらを参考に、”手の切れるような製品”の開発を目指してみてください。

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