労働生産性を上げる6つの原則

労働生産性を上げるための6つの原則



清水直樹
社長が見るべき経営指標は様々ありますが、なかでも最重要と考えられるのが労働生産性の指標だと思います。そこで今日は、労働生産性を上げるために組織や業務をどう変えていくかをご紹介していきます。主な対象読者は中小・成長企業の社長です。

目次

労働生産性とは?

労働生産性とは、社員一人当たりの付加価値額のことです。その名のとおり、労働の効率性を計る指標であり、労働生産性が高い場合は、社員の労働力が効率的に活かされ、利益を上げていると言えます。

労働生産性の計算式

労働生産性を計算するには、まず付加価値額について理解しておく必要があります。

付加価値額とは?

あらゆる事業活動は、外部から何かを仕入れ、そこに自社ならではの価値を付加して、また外部に販売活動をしています。ここでいう自社ならではの価値が付加価値であり、その額が付加価値額になります。正確には売上から原材料費や外注加工費など、外部から購入した費用を除いたものが付加価値額となりますが、ざっくり言えば、”売上-粗利が付加価値額”ということになります。

社長が見るべき労働生産性の計算式

付加価値額を把握したうえで、労働生産性の計算式を見てみます。計算方法にはいくつかありますが、会社の経営者にとって大切な計算式は以下の2つと言えます。

一人当たり労働生産性の計算式

付加価値額/社員数

一人当たり労働生産性(人時生産性)の計算式

付加価値額/総労働時間

 

日本企業の​労働生産性が低い理由

ご存知の通り、日本企業の労働生産性の低さは有名です。たとえば、平均的な人時労働生産性(粗利÷総労働時間)は5,000円くらいになっています。欧米先進国は約8,000円、北欧だと約1万円くらいなので、比較するとだいぶ見劣りするわけです。

​人時生産性の詳細データはこちらの記事に載せています。

人時生産性の計算式や業種別平均値、改善&向上方法を解説

 

DXやIT化を進めても労働生産性が低いままになる理由とは?

一般的にはDXやIT化が遅れているから労働生産性が低いのだ、と思われており、政府も企業もDXの推進が真っ盛りです。しかし、日本企業のDX化やIT活用が、他国と比べてそれほど遅れているかと言うとそうでもないと思います。​少なくとも労働生産性の数値の差を証明するほどの差があるとは思えません。

ではなぜ、日本の労働生産性は低いのか?私は会社内における業務の設計そのものに理由があると考えています。

数十年前、企業にソフトウェアを導入する流れが進み始めた時、欧米各国は成功したのに、日本ではことごとく失敗した時代がありました。

その失敗理由は何なのか?

​もともとソフトウェアは、この通りにやれば業務が効率化され、労働生産性が上がる、という主旨で創られていたのですが、日本企業は、そのソフトウェアに業務を合わせるのではなく、業務にソフトウェアを合わせようとしたのです。

​そのため、ソフトウェアの導入コストのみが嵩んでいった、というわけです。業務の根本的なやり方を変えずに、ソフトウェアだけを導入しても、多少の効率は上がるかもしれませんが、大きな変革にはつながらないのです。

​いま、労働生産性向上のために様々なソフトウェアやツールを導入する場合にも、同じ轍を踏まないようにしないといけません。

 

​労働生産性を上げるための6つの原則

​そこで今日は、業務設計面からみたときの、「労働生産性を上げるための6つの原則」をご紹介させていただきます。

労働生産性を上げる6つの原則
労働生産性を上げる6つの原則

労働生産性を上げるための6つの原則①仕事に有意味性を与える

​労働生産性が高い会社では、社員が仕事に有意味性を見出しています。有意味性とは、その仕事をしている”意味”を感じているということです。

仕事の意味を理解したことで生産性が向上し、ミスの減少した

​第二次世界大戦中、米軍の兵士は飛行機からパラシュートを使って地上に降り立っていました。

​しかし、実はそのパラシュート、梱包の仕方が原因で、空中で上手く開かず、事故になってしまうという事態が頻発していました。

​その後、パラシュートの梱包を手伝っていた女性たちと兵士たちを交流させたところ、事故が大幅に減ったという話があります。

​それまで女性たちは、自分たちが梱包しているパラシュートが、兵士にとってどれだけ重要なものなのか、そして、具体的に誰がそれを使っているのかを本当の意味で理解していなかったのです。

​そのため、梱包という単純作業がおろそかになってしまっていたのです。



​兵士たちと交流するという簡単な方法で、自分が完璧に梱包しなければ、目の前にいる彼らが死んでしまうということを心から理解し、ミスが減ったのです。

​どんな仕事でも、”これやっててなんか意味あるの?”という疑問を持っていれば労働生産性も下がりますし、ミスも多くなります。

この世で最も生産性を下げる仕事とは?

​この世で最も働き手の労働生産性を下げる仕事は、”午前中に地面に穴を掘り、午後にその穴を埋める仕事である”という例え話は有名です。まったく意味が感じられない仕事が労働生産性を下げるわけです。

仕事に有意味性を与えるには?

仕事に有意味性を与えるには、次のような仕組みがあります。

​組織図を創り、理解させる

自分が会社全体の中で、どんな仕事を担っているのかを理解させる。

​職務契約書(記述書)に仕事の目的を入れる

各々の仕事が、会社のビジョンにどうつながっているのかを理解させる。

​自分の後工程の仕事をしている人や部署と交流させる

自分の後工程とは、先ほどのパラシュートの梱包の例でいえば、実際にパラシュートを使う兵士となります。営業担当者なら実際にお金を払ってくれる顧客、エンジニアならユーザー、経理なら税理士さんや経営者となります。全ての仕事は、後工程の人のために行います。なので、後工程の人が何を求めているのか、どんな仕事をしてほしいと思っているのかを理解することが大切です。

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社員の労働生産性向上の原則十分な権限

​その仕事を完遂するにあたり、上司や誰かにいちいち許可を得なくても、仕事を進められるだけの権限が与えられていることは労働生産性向上に大きく寄与します。

​リモートワークの導入は労働生産性向上に寄与すると一般的には考えられています。しかし、社員に十分な権限が与えられていない会社においては、上司に判断を仰ぐ工数が逆に増え、労働生産性が下がる可能性もあります。

​社内で隣に上司が座っていれば、その場で聞けばすぐに解決できます。一方、リモートワークだと、わざわざリモート会議の時間を設定して話をしてからでないと行動できない、という事態も発生するからです。

​十分な権限を与えるには、次のような仕組みがあります。

​委任システム

委任した(された)仕事の期待値を上司部下で確認し、やり遂げるために必要なステップや報連相の仕方を確認する仕組みを整えること。

​職務契約書(記述書)で仕事の基準や役割を明記すること

自分の役割だけではなく、他部署の業務や権限についても理解してもらうことが大切。

​上司部下の定例会議

日頃から十分にコミュニケーションを取っていれば、上司部下の信頼関係が強まりますし、どこまで自分でやっていいか、という判断も付きやすくなります。一般には1on1ミーティングと呼ばれているものです。

1on1ミーティングについては以下の記事をご参照ください。

1on1ミーティング完全ガイド。話すことがなくて困ったら読む記事。

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社員の労働生産性向上の原則仕事に一定レベルの複雑さ

​その仕事が社員の能力・知識の相当部分を使う必要があるものである、または今持っている能力・知識を伸ばさないと達成できないものであること。

​そうでなければ、彼らにとってそれは、”退屈な仕事”になってしまいます。

​逆に仕事が難しすぎるとやる気を削ぐ結果になってしまうので、複雑さと達成可能性のバランスが大切となります。

​仕事に一定レベルの複雑さを与えるには、次のような仕組みがあります。

​キャリアパス

能力や成果に合わせて、違うポジションを任せていくこと。昇格の明確な基準。

​目標設定

次項でも出てきますが、高い基準の目標を設定させ、挑戦させること。



社員の労働生産性向上の原則目標設定への参加

​勝手に設定された目標にはなかなか全力でコミットすることが出来ないものです。

​グーグルをはじめとする一部のIT企業では、OKRs(Objective and Key Results)という目標管理手法を導入しています。

​OKRsでは、トップダウンの目標が5割、ボトムアップ(個人が達成したいと思う目標)が5割の割合で個人やチームの目標を設定しているそうです。

​誰かに言われたことではなく、自ら設定した目標を持つことで、達成したいという意欲が沸きます。

​目標設定への参加を促すには、次のような仕組みが大切です。

​ビジョンから目標を設定する仕組み

目標設定に参加させると言っても、社員が勝手に決めた目標をすんなり受け入れるわけには行きません。会社としてのビジョンがあり、そこに到達するためには、この目標を達成する必要がある、という”意味がある目標”を示すのが第一で、それに対して、”自分が何が出来るのか?”と考えさせ、目標を設定してもらうようにします。

​評価の仕組み

やってもやらなくても自分の生活には何の変化もない、というのでは達成意欲が湧きません。そこで、目標は人事上の評価と結びついていることが大切です。

社員の労働生産性向上の原則フィードバックを与える

​仕事の結果に対するなんらかのフィードバックがあることで、社員は自分の仕事により責任を持つようになります。

​これには、先ほど出てきた上司部下の定例会議の仕組みが欠かせません。

フィードバックは即時行おう​

多くの会社では、半期に一回くらいしか上司部下の会議を行っていなかったりします。半期に一回のフィードバックではあまり意味がありません。

​フィードバックは即時的であればあるほど効果が高い、とわれています。

​以前、「奇跡のレッスン」というNHKの番組がありました。様々な分野の世界一流のコーチが日本の学校を訪れ、期間限定で指導してくれる、という番組です。

​この中で、日本の学校の先生は、時間が経った後にネチネチ説教をするのに対し、一流のコーチは、生徒のプレイに対して即時に”どこが良かったか、どこが良くなかったか”をフィードバックする、という違いがみられました。

​生徒からすると、自分がどういう行動を取ったかを覚えているうちにフィードバックをしてもらったほうが、次への改善につながるわけです。

社員の労働生産性向上の原則安心安全な仕事環境

​個人のパフォーマンスは、その人自身の資質によるものだけではなく、その人が囲まれている環境に大きく左右されることが研究で明らかになっています。

​たとえば、その人の性格や価値観が合わない職場ではパフォーマンスが発揮できないことがあります。それが企業文化が重要視されている大きな要因の一つです。

​「環境」にはいろいろなものがありますが、少なくともその人が”心理的に安心できること”がとても大切です。

​常に不安や恐怖のある環境では、人はベストなパフォーマンスを発揮できないのです。

​これについては、グーグルのプロジェクトアリストテレスという研究の結果で、心理的安全性が労働生産性を高めることが明らかになっています。

​(参考)心理的安全性の測定方法:

心理的安全性を高める方法(測定方法付き)



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まとめ:社員の可能性を発揮させることで労働生産性は上がる

以上、6つの原則をご紹介しました。これらの原則を満たすということは、社員が持っている本来の力を発揮させることを意味します。多くの会社では、社員が本当の力を発揮できる環境になっていません。それが労働生産性を下げている真の理由なのです。まず今いる社員が本当に能力を発揮できる業務設計を行うことが第一、ツールやソフトウェアの導入は、その次です。

社長はなぜ社内で最高の生産性を上げているのか?

社長の場合、上記にあげた原則は日頃から実感しているものだと思います。

  1. 有意味性:その事業に”意味”があるから経営していると思います。
  2. 十分な権限:社長であれば当然、あらゆる仕事に対して”権限”を持っています。
  3. 一定レベルの複雑さ:日々、未体験の複雑な問題に対処している社長も多いでしょう。
  4. 目標設定への参加:会社の目標は社長が自分で決めているはずです。
  5. フィードバック:まずい経営の仕方をすればすぐに顧客からご意見をいただくことになります。
  6. 安心安全な仕事環境:自分で作った環境なので、安心安全な環境と言えるでしょう。

​このように社長は原則を満たしているので、仕事に対して動機づけされており、労働生産性が高いのです。

​一方、人に仕事を任せるときには、これらの原則を忘れがちかもしれません。

​ぜひ改めて、原則を満たしているかどうか、チェックしてください。

 

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