オリエンタルランドの企業理念、ディズニーはなぜ完璧なのか



オリエンタルランドの企業理念とは

東京ディズニーランド、東京ディズニーシーを運営するオリエンタルランドは、国内のエンターテインメント業界を代表する企業としてはもちろん、その組織づくりや人材育成システムのユニークさでも知られています。

その根幹となる企業理念について、オリエンタルランドは「企業使命」「経営姿勢」「行動指針」の3つを掲げています。

企業使命

  • 自由でみずみずしい発想を原動力に
  • すばらしい夢と感動
  • ひととしての喜び
  • そしてやすらぎを提供します。

 

経営姿勢

  1. 対話する経営
  2. 独創的で質の高い価値の提供
  3. 個性の尊重とやる気の支援
  4. 経営のたゆまぬ革新と進化
  5. 利益ある成長と貢献
  6. 調和と共生

 

行動指針

  1. 探究と開拓
  2. 自立と挑戦
  3. 情熱と実行

企業使命(ミッション)である「幸せの提供」を実現するために、常に答えを探求し続けていくことが仕事だと捉えているわけです。ディズニーランドで働くキャストたちは、この理念に関する共通認識があり、その実現に向けて行動しているのです。

 

オリエンタルランドの理念浸透プロセス

企業理念を浸透させる方法として、マニュアルを用いた行動指針の徹底ということが考えられます。しかし、ここには大きな落とし穴があります。それが「手段と目的の逆転化」です。

オリエンタルランドで20年間人材育成に携わり、『ディズニーの最強マニュアル』の著者としても知られる大住力(おおすみ・りき)氏もこの点を指摘して、マニュアルとは「新人からベテランまで、誰が実行しても同じ結果となるべきもの」としながらも、「マニュアルに則るだけの『手段を目的化する行為』は危険だ」と述べています。

理念を実践している仕事とは?

ここで、大住氏が例として挙げた5つのケースをご紹介します。この中で、ディズニーランドの理念を100%実践できている仕事はどれだと思われますか?

  1. 100メートル先の京葉線の乗客に手を振る護衛キャスト
  2. 絵を描く清掃キャスト
  3. ローラースケートを履いた清掃キャスト
  4. キャストが上司からもらうファイブスターカード&同僚からもらうアワードピン
  5. 子どもが泣き止まない時にキャストが手渡す特別なシール

答えは…

②③清掃キャストはお客さまの案内係という役割も担っているので、プラスアルファの行為は、本来の業務の支障ともなり得る→×

③お客さまよりも上司や同僚を意識して仕事をするようになってしまう可能性がある→×

④転売されたり、キャストが作業として配るようになってしまい、本来の目的からズレてしまっている→×

それに対して①は

「護衛=お客さまを見守る」という本来の業務から外れることなく、相手の期待を大きく裏切るサプライズを提供できている、つまりこれが大住氏の考える正解となります。

マニュアルには書いていないけれども、キャストが「たまたま自分が手を振ったら、向こうも手を振ってくれた」という嬉しさを周囲とシェアし、それが自然と広まってスタンダードになっていったわけです。

GREETING WITH CLAPPING

このほか「GREETING WITH CLAPPING」という、パレードの際にキャストのリードで観衆がクラップ(手拍子)をしながらキャラクターを待つ仕組みがあります。ディズニーランドではかつて、飛び出し防止用のロープで遊んだ子どもにケガが多発していて、注意喚起の声かけによって園内の雰囲気が壊れてしまうという悩みがありました。

そこで、アルバイトのキャストが問題の本質を見抜き、「子どもたちの手が自由だからロープで遊んでしまうんだ。その手を別のことに使ってもらおう」と発案したアイデアが「GREETING WITH CLAPPING」なのです。

つまり、クラップという「手段」を用いて、雰囲気を壊さずに事故を防止するという「目的」を達成したわけです。この手法はその後アメリカ本部にも伝えられ、正式にマニュアルに盛り込まれることになったそうです。

マニュアル=理念浸透のための仕組み

このように、ディズニーランドでは「マニュアルに書いていないことこそ本当の仕事である」と考えられているわけです。ディズニーランドの理念である「GIVE HAPPINESS」に基づき、キャストがお客さまを喜ばせ、またお客さまから喜ばせてもらった幸せな体験が自然と広まり、いつのまにかスタンダードとなったことが「最強のマニュアル」だと定義付けているのです。

東日本大震災の際、帰宅困難に陥ったお客さまへ素早く商品を提供したことは、いまだにオリエンタルランドの強さとして語り継がれています。これも、キャストそれぞれに浸透した企業理念に裏付けられた「自由でみずみずしい発想」によるものだと言えるのです。

マニュアルというのは、「これはダメ」「こうしてはいけない」という「規則」を定めるものではなく、「みんなにとっての常識」を明確にするものであるべきです。どこへ向かって進んでいくべきなのか、何をすべきなのかという共通認識があれば、あらゆるシチュエーションにおいて、臨機応変に正しく対応できるようになります。まさにマニュアルは、企業理念を浸透させるためのツール(仕組み)として機能するようになるわけです。

オリエンタルランドの組織の強さは仕組みにあった

企業理念(ビジョン・ミッション・バリュー)を浸透させる重要性は理解できても、実際には一筋縄ではいかないのが現実です。ここでは、オリエンタルランド(ディズニーランド)が実際に取り組んでいる組織づくりの仕組みをご紹介します。

ディズニーの仕組み化

組織づくりを語る際によく言われる言葉で「2:6:2の法則」というものがあります。これは要するに、「集団では優秀な人が2割、普通の人が6割、無能な人が2割に分かれる」というものですが、ディズニーランドでは、誰が実行しても同じ結果となるマニュアルを浸透させることで「スタンダード以上が10割となる」組織づくりが徹底しています。

ディズニーの数ある組織づくりの仕組みの中でも、中間層の中だるみを抑止する効果があるのが「ブラザーシステム」です。OJT制度は広く導入されていますが、「ブラザーシステム」のユニークな点は、その関係性に期限がないことです。上司でも親友でもない、ナナメの関係である先輩と後輩がマンツーマンでコミュニケーションを取る関係性が続くわけです。

この仕組を広く紹介した大住氏も、自身の新人時代をコーチングしてくれた「ブラザー」とは、今もプライベートの交流があるそうです。もともとディズニーのフィロソフィーでは、働く時間とオフの時間が分けられていません。ワーキングタイムだけでなく、プライベートでもブラザー同士は密な関係を構築することになります。

組織をダメにしがちな中間層は常に後輩からその背中を見られることとなり、後輩への指導を通して問題解決能力やマネジメントスキルが向上し、結果的に優秀な人材として育つ効果があるわけです。また、新入社員の業務の習熟度向上や早期離職防止というメリットも知られています。

仕組み化の重要性

ここまでオリエンタルランドの例を挙げ、マニュアルを通じた理念浸透プロセスやブラザーシステムによる人材育成の仕組み化を見てきましたが、では、なぜ皆さんの会社にとって仕組み化が重要なのでしょうか?



仕組み化=独自性・再現性

私たちは、仕組み化を「自社独自の再現性のある仕事のやり方をつくること」と定義付けています。仕組みづくりを正しく行えば自社の独占的な資産になり、自社の独自性が高くなれば競争優位につながり、当然それが会社としての強さにつながります。また、何度繰り返しても同じ良い結果を出すことができる仕事のやり方をつくっていくことで、属人性を排除できるようになります。

結果的に、事業のスケールアップや品質の安定化による顧客満足度の向上、より良い企業文化の醸成、人材育成のスピードアップやスムーズな事業承継につながるなど、数多くのメリットが得られます。

仕組み化の方法

仕組み化にはいくつかのステップがあります。ここでは5つに分けてご説明します。

ステップ1:目的(得たい結果)の定義

目的不在の仕組み化は、会社を単なる官僚組織にしてしまう可能性があります。会社は様々な仕組みで成り立っていて、それぞれが密接に関連し合っています。それら全ての仕組みに個別の目的があるわけですが、最終的には1つの目的につながっている必要があります。

それが会社の理念(ビジョン、ミッション、バリュー)です。これを明文化しなくてはいけないのです。全ての仕組みは理念を実現するためにあります。つまり、仕組みをつくる際には、それがどう会社の理念実現につながっているのか、という視点が欠かせません。

仕組み化というのは、会社を属人的な「人依存」から「仕組み依存」へと変えていくことであり、大きな文化の変革を伴うこともあります。自社の将来的な姿や組織運営のやり方を考え直すタイミングとも言えるわけです。

ステップ2:目的を達成する方法を探索する

ステップ1で定義された目的を達成するための方法を「探索」します。これは非常にチャレンジングな課題であり、事業モデルを完全に作り替えないといけないかもしれません。マイケル・ガーバー氏が『はじめの一歩を踏み出そう』の中で述べるように、「起業家」としての人格で行うべきことで、ここには創造力が求められます。

ステップ3:業務を標準化し、マニュアル化する

「探索」の結果見つかった業務プロセスを、誰もが再現できるように標準化します。さらに標準化されたやり方を文書に落とし込みます。これにより、「自社独自の再現性のある仕事のやり方」をマニュアル化することができたわけです。つまりマニュアルというのは、自社にとっての非常に重要な知的資産となるのです。

ステップ4:絶え間なく改善のプロセスを回す

改善とは、より良いやり方を見つけるための絶え間ないプロセスです。仕組みの改善とは、「より少ない労力で、今以上にお客さまに大きな価値を提供する方法を探すこと」です。先ほどのディズニーランドの例で言うと、「GREETING WITH CLAPPING」がこれに当たります。

過去40年間、世界中のビジネスを見てきたマイケル・ガーバー氏は「どんな仕組みであってもまだ改善の余地がある」と述べています。仕組みづくりには終わりがありません。ワールドクラスと言われる企業であっても、常に仕組みの改善をしているわけです。経営者の仕事とは、すなわち仕組みづくりなのです。

 

どんな職場もディズニーランドに

オリエンタルランドで人材育成に携わり、圧倒的なホスピタリティーを持つキャストを育成する仕組みづくりに成功した大住氏は「ディズニーの仕組みは、あらゆる企業や人に活用できる、決して特別なものではない」と言い切っています。「どんな職場でもディズニーランドにできる」というわけです。

私たちは、中小・成長企業の皆さまの会社理念の明文化、そして理念を浸透させるマニュアル策定、さらには永続的な改善のシステムに至る、あらゆる仕組みづくりをご支援しています。

 

 

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