おもてなし接客

「おもてなし接客」を仕組みにせよ – ホテルベネチアの例



おもてなし接客が会社の盛衰を左右する

どんな業界であっても、オンライン上の口コミが大きな力を持つ時代になりました。近所にある飲食店や病院などを調べれば、すぐに口コミ(レビュー)が表示されます。レビューが低い会社は新規顧客が寄り付かなくなるのは当然として、レビューが全くない会社も”リスクがある”と判断されて避けられがちになります。

レビューの多くは、店員やスタッフのおもてなしや接客態度に関するものです。

優れたおもてなし接客によって、レビューが高まれば、リピート購入や口コミ効果による新規顧客獲得が期待できます。一方で不手際があれば、ブランドイメージが傷つき、顧客離れを招いてしまいます。つまり、おもてなし接客の良し悪しが、会社の盛衰に直結するのです。

かつては営業力やマーケティング力さえあれば、業績を上げることが出来ました。しかし今では、おもてなし接客こそが業績を上げるために何よりも大切な時代になったのです。

本記事では、世界700万部のベストセラー「はじめの一歩を踏み出そう」に登場するホテルベネチアの事例を取り上げます。同ホテルでは、心のこもった細かな気配りによる卓越したおもてなし接客が提供されていました。その秘密は、属人的能力に頼らず、おもてなしを体系的に仕組み化していた点にありました。おもてなしをビジネスプロセスとして標準化することで、安定的に高品質なサービスを実現していたのです。

 

ホテルベネチアのおもてなし

マイケル・E・ガーバーの著書「はじめの一歩を踏み出そう」の中で、ホテルベネチアの事例が紹介されています。ホテルベネチアでは、どのスタッフが対応しても一貫した高品質のサービスが提供されていました。この事例から、優れたサービスを持続的に提供するためには、個人の資質に頼るのではなく、仕組みを構築することが不可欠であることが分かります。

本文を引用しながら見ていきましょう。

おもてなしのはじまり

ロビーに入った瞬間に、このホテルが特別な場所であるということに気づいた。内装には杉材がふんだんに使われており、それが温かい色の照明に映えて、くもりのある雰囲気に包まれていた。(ホテルの)レストランから部屋に戻る道には、もう冷たい夜気が満ちていた。

「暖炉の火を起こして、寝る前にもう一杯ブランデーを飲もう」

こんなことを考えながら、杉林の小径を歩いていた。しかし、部屋に戻った私は、またもやホテルのサービスに驚かされた。暖炉の火は赤々と燃え、枕元にはミントが置かれていたのである。そして、ベッド脇のナイトテーブルには、一杯のブランデーと手書きのカードが置かれていた。カードには次のようなことが書かれていた。

“ベネチアにお越しいただきありがとうございます。初めのベネチアの夜をお楽しみいただけたことかと思います。御用がございましたら、いつでもお申し付けください。”

私はホテル側の十分な心遣いに満足して、眠りについた。

最初から特別な体験

顧客体験の第一印象は変えがたく、最初の段階でどのような期待値を持ってもらうかがその後の体験を左右します。

ホテルベネチアでは、お客様へのさりげない気配りが行き届いていました。例えば、夜には部屋の暖炉に火が付けられ、枕元にはミントが添えられ、ブランデーがベッドサイドに用意されていました。このように、お客様の潜在的なニーズを先回りして対応することで、特別な体験を提供していたのです。

また、朝食時にはお客様の好みのコーヒーが用意され、よく読む新聞が配達されるなど、お客様一人一人への細やかな配慮が為されていました。こうした点で、ホテルベネチアのサービスは極めて手が込んでいました。

顧客の好みに合った一貫したおもてなし

翌朝、私は奇妙な音で目を覚ました。泡立つような音が聞こえる。

何の音だろうかと確かめてみると、キッチンにおいてあったコーヒーメーカーのタイマーがセットされ、コーヒーを淹れ始めていた。そこに立てかけてあったカードにはこう書かれていた。

“あなたのお好きなブランドのコーヒーです。どうぞお楽しみください。”

驚いたことに、そのコーヒーのブランドは、私がいつも飲むものだった。どうやって彼らは、私の好みのコーヒーを知ることが出来たのだろうか?そういえば心当たりがあった。

昨夜のレストランで、どのブランドのコーヒーが好きかと聞かれたのである。そのコーヒーがちゃんとここにあるのだ!

レストランでの会話の意味を理解した時、ドアをそっとノックする音が聞こえた。私はドアのところに行き、開けてみたが、人影はなかった。しかし、絨毯の上には新聞が置いてあった。いつも読んでいるニューヨークタイムズである。

どうして私が普段読んでいる新聞を知ることが出来たのだろうか?

思い出せば、チェックインの時に、受付の女性に新聞のことを聞かれていた。ここでもきっちりと私の好みに合ったサービスをしてくれたのである。その後、私の泊まるたびに、素晴らしいサービスが繰り返された。

押しつけではない接客

おもてなしをする際に、「押しつけ」と思われないことも大切です。

都心の高級ホテルの場合、スタッフが至る所にいて、何でも対応できるようにしてあります。宿泊客が時間を大事にしていると考えられるため、スピーディに対応できるようにしてあるわけですね。



一方、リゾートホテルの場合には、宿泊客はスタッフに介入されずに自分だけの時間を過ごしたいと考えている可能性もあります。ですので、スタッフはなるべく宿泊客の目に入らないところに、しかし呼べばすぐ対応できるような距離感が大切かも知れません。

これは顧客によって好みが異なるので難しいところですが、来店前の段階から、どのような体験をしてもらいたいかを予め設計し、表現しておくことが大切でしょう。

ホテルベネチアでは、宿泊客の好みを事前に把握することによって、きめ細やかなサービスを実現しています。

おもてなしを実現するには、まず顧客一人一人の好みを正確に把握する必要があります。ホテルベネチアでは、チェックイン時の会話などから、顧客の趣向を探っていました。そして得た情報を基に、コーヒーや新聞の用意など、個別の対応を行っていたのです。つまり、顧客理解が細かな気配りの前提条件となっていました。

新人でも優れたおもてなし接客が出来る

私はマネージャーに会わせてほしいと頼んでみることにした。どうして、常に同じサービスが提供されるのかを知りたかったからである。マネージャーは29歳の若い男性だった。

「若いのにしっかりしている。彼がいるから、このホテルの経営は上手くいっているのだろう」

私はこんな第一印象をもった。

新入りマネージャーでも同レベルのおもてなしが実現可能

筆者がホテルベネチアを体験した際、素晴らしいサービスの秘密を知りたくなり、マネージャーと対話する機会がありました。すると、マネージャーは入社したばかりの29歳の若者であることが分かりました。にもかかわらず、ベテランスタッフ以上のサービスが提供できていました。この事実から、ホテルベネチアの優れたサービスは個人の資質に依存しているのではなく、何らかの仕組みが存在することが推測できます。

実際、マネージャーに尋ねてみると、ホテルベネチアの優れたサービスは業務マニュアルに基づいて標準化されていることが分かりました。つまり、おもてなしの心を持ったスタッフ一人一人の力だけでなく、体系的な仕組みが構築されていたからこそ、常に高品質のサービスが提供できていたのです。人に過度に依存すれば、スタッフの入れ替わりによってサービスの質が左右されてしまいます。ホテルベネチアでは、そうした属人的能力に頼るのではなく、おもてなしの仕組みを標準化することで、安定した顧客体験を実現していました。

おもてなし接客は仕組みに出来る

素晴らしい顧客サービスを体験したり、聞いたりすると、多くの社長は、”うちにも、あんな社員がいたらいいな~”と思うものです。

しかし、ホテルベネチアの話からわかることは、本当の素晴らしい顧客サービスは、属人的なものではなく、仕組みによって行われるものだということがわかります。

社内に人当たりのいい人がいる、気の利く人がいる、というのはもちろん良いことです。

ただ、それではその人が辞めてしまったらサービスの質は下がりますし、他の人が対応した時には質が下がり、お客さんはギャップを感じてしまいます。

おもてなしを仕組み化する理由

優れたおもてなしを持続的に提供するためには、個々のスタッフの力だけに頼るのではなく、おもてなしを仕組み化する必要があります。仕組みを標準化しておけば、スタッフが入れ替わっても同水準の顧客体験を届けられます。また、おもてなしの質を一定以上に維持・向上させることも可能になります。ホテルベネチアの成功は、まさにこの「おもてなしの仕組み化」を実践した結果なのです。

マーケティングだけでは不十分

多くの企業は、マーケティングやセールス、広告に投資をすれば売上が上がると考えがちです。確かに集客力はビジネスの命綱ですが、それだけでは不十分です。集客して顧客を獲得できても、提供する顧客体験が貧弱では、獲得した顧客がすぐに離れてしまうからです。ホテルベネチアの事例が示すように、優れた顧客体験こそが、顧客を満足させ、リピーターにつなげる鍵なのです。

自社のおもてなし接客を仕組み化する

ではホテルベネチアに学び、自社でもおもてなしを仕組み化していくために何を考えるべきかを見ていきましょう。

自社にとってのおもてなしを定義する

まずはおもてなしの定義を明確化する必要があります。おもてなしとは何か、顧客にとって大切なのはどのような心遣いか、自社の強みや特性は何かを洗い出します。そして、おもてなしの本質的な要素を特定し、実現する仕組みを検討していきます。

マニュアルの整備

次に、おもてなしを標準化するための業務マニュアルを整備します。顧客対応の流れ、言動の詳細、気配りのポイントなど、おもてなしの内容を文書化していきます。この際、各業務プロセスでどのようなおもてなしが求められるかを明記します。あわせて、おもてなしを支える設備や備品についても標準化しておきます。

マニュアルをもとにした社員教育

おもてなしを体系化した仕組みを構築しても、従業員一人一人がその精神を体得していなければ実効性は期待できません。そこで重要になるのが、おもてなし教育と定着です。業務マニュアルに基づく研修を徹底し、おもてなしの心を従業員に浸透させていきます。さらに、優れた事例や好事例を共有するなどして、おもてなしの意識を高め続ける環境を整備します。

仕組みを改善する仕組み

ただし、おもてなしの仕組みづくりで終わりではありません。お客様のニーズは常に変化しているため、仕組みを固定化してはいけません。お客様の声に耳を傾け、おもてなしに関する従業員の提案を積極的に取り入れながら、仕組みを継続的に見直し、改善していく姿勢が重要なのです。おもてなし接客の質を高め続けることが、ブランド力の向上とリピート顧客の獲得につながっていくはずです。

以上、ホテルベネチアの話をもとに、おもてなしの仕組み化について見てきました。ぜひあなたの会社でも考えてみてくださいね。

なお、同じように自社を仕組み化したい方は、以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。

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