仕事が出来ない人に悩む社長
経営者の方からよく聞く悩みとして、仕事が出来ない人にどう対応、指導したら良いか?というものがあります。仕事が出来ない人とは、
- 会社が求める基準での成果物を出せない
- ミスが多い
- 技能習得が遅い
といった傾向にある人です。
欧米型のマネジメントであれば、会社の基準に達しない人は解雇という選択肢が取られるわけですが、日本の場合、仕事が出来ないからといってそう簡単に解雇することはできません。一度雇ってしまったら、仕事が出来なかろうが、長期にわたって面倒を見ることになります。
また、最近では仕事が出来ない人に対して厳しい指導する際、言い方や関係性によってはパワハラととられる可能性があり、会社にとってのリスクが発生します。
そういうわけで、”仕事が出来ない人”にどう対応するかを悩んでいる社長が多いのです。
仕事が出来ない人に対する基本姿勢
まず、社長として仕事が出来ない人に対してどのような姿勢で臨めばいいのかを見ていきましょう。
2割は仕事が出来ない人がいることを前提で経営する
どんな組織であっても、全メンバーのうち2割は仕事が出来ない、つまり組織の基準に合わない人がいるものです。これは2:6:2の法則として良く知られています。組織に10人いたら、2人は基準以上の仕事が出来る人、6人は普通の人、2人は基準通りの仕事が出来ない人です。
経営者はそのことを理解し、雇った人のうち、2割は基準に満たない仕事しかできないと知るべきです。
松下幸之助氏は、松下氏は、会社が大きくなればなるほど、出来ない社員が増えていくのは当たり前で、それを前提とした経営をしていかないといけない、と考えていたそうです。
これは松下氏が提唱したダム式経営に通じるものがあります。ダム式経営は常に余裕をもって経営していくという考え方です。分かりやすいのは資金のダムであり、常に余剰資金を貯めて置き、余裕のある経営をしていくということです。人材にも同じことが言えます。カツカツ、ギリギリの人員で経営していたのではいつ業務が止まってしまうかわかりません。2割の人は仕事が出来ない、という前提に立ち、余裕のある人員配置をすることが大切でしょう。
その人が諦めるまで諦めない
これは私の個人的なポリシーというか哲学になりますが、その人が諦めるまでは自分も諦めない、ということです。どんなに仕事が出来ない人であっても、その人が成長したり、仕事で成果を出そうと思っているうちは、辛抱強くサポートし、こちらが先に諦めることをしない、ということです。
ただし、貢献心がある場合のみ
ただし、これには条件があります。それは、その人に貢献心がある場合に限る、という条件です。その人が会社や同僚、顧客に貢献しようと努力している場合には、それを支援します。しかし、もしそうでないならば、残念ながら自社には合わない人である、ということになります。
貢献心が無いということは、そもそも会社の方針や理念に共感していない人である、ということです。この場合、一緒に働き続けてもお互いが不幸になるだけです。
人の成長スピードには差がある
貢献心がある人に対しては時間をかけて成長を支援します。そもそも人の成長スピードには個人差があります。仕事が出来る人と仕事が出来ない人の差は、能力の差というよりも、成長スピードの差であることも多いのです。ある人は1か月でマスターできることであっても、別の人にとっては3か月かかることもあります。これは仕事であろうが、運動であろうが同じことです。
人を直すのではなく、仕組みを直す
私たちは日頃、会社経営の仕組み化をご支援していますが、仕組み化の基本となる考え方が「人を直すのではなく、仕組みを直すことで成果を上げる」というものです。この考え方に沿うと、社員が上手く仕事をこなせないのであれば、それはその人本人というよりも、会社が用意した仕組みに問題がある、ということです。
人の考え方や能力はそう簡単には変えることが出来ません。しかし、会社の仕組みは経営者の意志次第ですぐに変えることが出来ます。であれば、仕事が出来ない、能力が低い人でも成果が出るような仕組みを創ったほうが、長期的には会社としては賢い選択肢と言えるのです。
仕事が出来ない人への対応と指導方法
基本姿勢を見てきたうえで、仕事が出来ない人への対応と指導方法をより具体的に考えてみましょう。
適材適所で”出来ない”を”出来る”に変える
人にはそれぞれ素質があります。現在の部門で仕事が出来ないと思われている人であっても、別の部門で別の仕事を任せれば、別人のように成果を発揮することがあります。たとえば、研究職や事務作業のように比較的一人で考えたり、作業を行うことが得意な人もいれば、営業や顧客サービスなどのように対人での仕事が得意な人もいます。その特性を生かさなければ、せっかくの良い人材も埋もれてしまいます。
苦手分野を克服しても得意にはならない
私個人の例で言えば、学生のころから人付き合いがあまり好きではなく、対人コミュニケーションもそんなに得意ではありませんでした。当時から起業して成功したいと考えていた私は、ビジネス書で、”起業するには、最初は営業の仕事に就いて、営業力を高めたほうが良い”と書いてあったのを見つけました。そこで、本当は苦手な営業職に就くことにしたのです。もともと対人コミュニケーションが苦手ですから、最初はとても苦労しました。
ただ、苦労した分、営業についてたくさん弁供養しました。本で読んだ営業方法やコミュニケーション方法を実践で試す、ということを繰り返すうち、苦手だったコミュニケーションが嫌でなくなり、そこそこ成績を出せるようになりました。逆に、もともとナチュラルで対人スキルが高かった人たちは、自分でしゃべるのが得意だと考えているので、さして勉強もしていなかったように思えます。
そんな感じで苦手は克服できましたが、とはいえ、営業が最高レベルで得意になった、というわけでもないのです。やはりもともとも資質は一人で何かを調べたり、作業したりする方が得意なのです。そのため、自分で適材適所を見つけ、いまは得意分野を伸ばし、活かせる仕事だけに取り組むようにしています。
仕事を簡単にする
次に、「人を直すのではなく、仕組みを直す」の具体的な話です。社員が仕事が出来ない、ということは、
- 求められる仕事の基準に対して、その人の能力が低い
ということになります。
仕事を出来るようにする二つの方法
であれば、対処法としては二つあります。
ひとつは、
- その人の能力を高めて、求められる仕事の基準に達するようにすることです。
多くの会社では、仕事が出来ない人に対してこのやり方で対処しようとしています。しかし、先にも述べた通り、人を成長させるのには時間がかかります。そこで二つ目の選択肢があります。
二つ目の選択肢は、
- 求められる仕事の基準を下げること
です。
つまり、仕事を簡単にする、ということです。
誰がいつやっても同じ成果が出るようにする
たとえばハンバーガー屋を考えてみましょう。ハンバーガーを作るには、肉を焼いて、バンズに挟んで、ケチャップをかけて完成させます。味を大きく左右するのが最後にかけるケチャップの量だとしましょう。仕事が出来る人は、いつも同じ量のケチャップを正確にかけることが出来ます。しかし仕事が出来ない人は不器用で、毎回かけるケチャップの量がバラバラです。こうなると毎回味が変わってしまい、お店に対する信頼がなくなってしまいます。
そこでどうするか?
ケチャップをかける動作を何度も練習させ、毎回同じ量をかけられるようにトレーニングするのが普通の会社のやり方です。
仕組み化発想がある会社のやり方
しかし、仕組み化の発想がある会社ではそうはしません。ワンプッシュで最適な量が出るような容器に変えるのです。これにより、誰がいつやっても同じ量のケチャップが出ます。ベテランであろうが新人であろうがミスをすることがありません。ケチャップの量について気を使う必要がなくなるので、別のこと(肉の焼き加減やお客様対応)に意識を使えるようになります。
マニュアルを作る
次に簡単にした仕事をマニュアル化することです。マニュアルというと日本ではイメージが悪いのですが、正しく作れば、ベテランにとっても新人にとってもうっかりミスや作業漏れを無くす有効なツールになります。
マニュアルは仕事の目的、手順、基準を明確にする
マニュアルには仕事の目的、手順、基準を記載します。仕事の目的とは、何のためのその仕事を行うのか?手順は、ステップバイステップで作業の順番を示すこと、基準とは、その仕事に求められる(主に定量的)基準です。
仕事が出来る人と出来ない人の差を埋めるのがマニュアル
たとえば、レストランでテーブルを拭くという仕事を考えてみましょう。仕事が出来る人は漏れなくまんべんなく拭くことが出来ます。一方、仕事が出来ない人は四角いテーブルを丸く拭いてしまい、拭き残しがあります。本人は正しく拭いたと思っていますが、仕事が出来る人から見ると、明らかな拭き残しがあるのがわかります。
この場合の問題は、テーブルの正しい拭き方の手順を示していないことと、テーブルがキレイな状態とはどんな状態かという基準を示していないことにあります。このように、仕事が出来る人と出来ない人の差を埋めるのがマニュアルなのです。
フィードバックの頻度を上げる
フィードバックとは、その人が行った仕事が良かったのか、悪かったのかを本人に伝え、言動の軌道修正を行っていくことです。フィードバックは人の成長に欠かせないものです。そして、フィードバックはその仕事を行った直後に行う方が効果が高いことが分かっています。たとえば、同僚に失礼な発言をした人がいたとして、一か月たってからその発言についてあれこれ指摘されてもピンときません。それよりも、発言をした直後に、その発言はまずかったよね、と指摘し、理由を伝えたほうが本人は反省、修正しやすいはずです。
フィードバックを行うためには、日常業務内でのコミュニケーションの他、上司部下の定例会議がお勧めです。定例会議内でフィードバックを行うことで、本人の内省の時間を取ることが出来ます。
まとめ:仕事が出来ない人がいるのは、社長のせい
以上、仕事が出来ない人への対応や指導法を見てきました。大切なことは、仕事が出来ないことを本人のせいにするのではなく、”自社に問題があるのだ”と考えを改めることです。
第一に、仕事が出来ない人が一定数いるのは当たり前で、それを前提とした経営を行わないといけないこと。第二に、仕事が出来ない人を雇ったのは社長自身であること(社長が直接面接したわけではないかもしれませんが、仕事が出来ない人を雇った人を雇ったのは社長なのです)。第三に、能力が高い人でないと活躍できない仕組みにしてしまったのは社長です。
その考えに立ったうえで、人を活かすための仕組みづくりに取り組んでいきましょう。