経営指針書とは?作り方やフォーマットをご紹介



清水直樹
経営指針書の作り方やフォーマットについて解説していきます。

 

経営指針(書)とは?

経営指針とは、「経営理念」「経営方針」「経営計画」から成り立つ、会社を経営していくための道標です。経営指針を成文化したものが経営指針書です。

中小企業同友会が提唱した経営指針

経営指針は元々、中小企業同友会が提供している考え方です。同友会は、戦後、中小企業の有志が、自主的な努力で中小企業の根本的な利益を守り、日本経済の自主的で平和的な発展をめざすことを目的に創設した団体です。現在は、日本全国に支部があります。

中小企業同友会では、経営成文化した「経営指針書」を作成するための講座を開催していますので、詳しくはお近くの同友会に問い合わせてみると良いでしょう。

本記事では、同友会における経営指針の考え方を簡潔にご紹介していきます。

なお、私は同友会の関係者でもなければ、会員でもありません。以下の内容は、私が独自に調査したり、実践したりしてきたことをベースに書いていますので、その点ご了承ください。

 

経営指針書と経営計画書の違いとは?

経営指針書とよく似た言葉で、経営計画書もよく使われます。経営計画書は、一倉定氏が提唱した概念として良く知られています。一方の経営指針書は同友会が発祥です。では、両者はどう違うのでしょうか。実際のところ、両者の構成や利用用途には大きな違いがありません。どちらも、経営者の理念や方針、長期計画、短期計画を明文化したものです。経営者が同友会から学んでいれば経営指針書、一倉定氏の流れを汲んだコンサルタントから学んでいれば、経営計画書となるだけです。

 

経営指針書と事業発展計画の違いとは?

また、事業発展計画書というものもあります。こちらは日本合理化協会の牟田學氏が提供しているものです。同じく経営者の理念、方針、計画をまとめたものであり、経営指針書と大きな差異はないと言っていいでしょう。

というわけで、経営者が自分の考えをまとめるにあたって、経営指針書、経営計画書、事業発展計画書のどれを使うかは、好みの問題と言っていいでしょう。それより大切なのは、どれだけ真剣に中身を考えたか?作ったものをいかに活用するか?です。

 

経営指針の構成

経営指針書

経営指針は、主には以下の3つで成り立っています。

経営理念

会社を経営するにあたって、経営者や会社としての基本的なあり方を表明したものです。企業の目的は何か、何のために経営を行うのか、どのような会社を目指すか等を述べたものです。

 

経営方針

経営理念を具体化し、実現していくために中期(3~5年)のあるべき姿と方向性、それに到達するための道すじを示すものです。

 

経営計画

経営理念、経営方針をさらに具体化した、利益計画を中心とした具体的な実行計画です。

 

なお、最新の経営指針では、理念と方針の間に「10年ビジョン」が入っています。時代の変化に合わせて自社の目指す姿を明確にし、大胆な経営をしていこう、という意図があります。

 

経営指針(書)を成文化することのメリット

経営指針を成文化することは、時間もかかりますし、非常に頭も使う作業になります。それでも経営者にとって、取り組む価値があることと言えます。その理由は以下の通りです。

1.経営の判断軸になる

経営者が今後の自社の進むべき方向性を明らかにすることによって、日々の意思決定の軸となります。経営指針を成文化する過程において、自社の置かれている環境や自社の強み、弱みなどを把握することになります。それ自体が経営力を高めることにつながりますし、これまで気が付かなかったアイデアやリスクを発見することもできます。社長の仕事とは、未来の事業を生み出すことであり、そう意味で、経営指針を考えること自体、社長の仕事そのものと言えます。

 

2.社員との信頼関係を築く

経営指針を成文化し、それを社員に発表することで、信頼関係が生まれます。社員の不安や不満は、社長の考えていることがわからない=自分の仕事や生活がどうなるかわからない、と言ったところから生まれてきます。経営指針は、社長の考えそのものであり、それを成文化し、皆に共有し、かつその実現に向けて協力して取り組むことで、労使関係が良好になります。これは同友会が発足当時から大切にしている考え方です。

 

3.対外的な信用力アップ

経営指針は、自社の今後の方向性を示したものであることから、金融機関等と付き合う際にも大きな効果を発揮します。

 

経営指針の作り方

では経営指針の作り方についてみていきましょう。

1.経営理念を作る

経営理念とは、事業経営を行うにあたっての、経営の基本的なあり方を表明したものです。経営理念は、会社の存在意義や経営者の使命感、社員との共通の目的になるものであり、組織を一枚岩にするために必須のものと言えます。

同友会では、以下のような質問を自問することで経営理念を導き出すよう推奨しています。

1.何のために経営をしているのか

2.わが社の固有の役割は何か

3.大切にしている価値観・人生観

4.顧客、取引先、仕入れ先に対する基本姿勢



5.社員に対する基本姿勢

6.地域社会や環境に対する基本姿勢

7.わが社の経営理念は?

 

なお、経営理念については以下の記事もご参考にされてください。

企業理念と経営理念の違いと作り方

 

2.経営方針を作る

経営方針とは、経営理念の徹底とその具体化、創造的実現を目指して、中期のあるべき姿と目標を示し、それに到達するための道筋を示すもの(「経営指針成文化の手引き)より)です。

ここでいう方針の中には、3年~5年程度の中期計画も含まれており、経営理念と年度計画の中間にあるもの、と考えるといいかも知れません。

経営方針を作るためには、「経営環境の分析」「自社の分析」をしたうえで、「経営戦略」を立てます。そして、「3か年計画」としてまとめていきます。

 

経営環境の分析

経営環境の分析によく使われるのが、PEST分析です。

PEST分析とは、主に経営戦略や海外戦略等の策定、マーケティングを行う際に使用し、自社を取り巻くマクロ環境(外部環境)が、現在または将来にどのような影響を与えるか、把握・予測するためのもの手法です。Politics(政治)、E= Economy(経済)、S=Society(社会)、T=Technology(技術)という4つの視点から分析することから、それぞれの頭文字をとり「PEST」と言います。

自社の分析

自社の分析によく使われるのが、SWOT分析です。SWOT分析は自社の強み弱み、そして、外部環境の機会と脅威を照らし合わせる方法です。戦略立案の鉄板ツールと言えます。あまりに有名なので、ここであえて詳しくは説明しません。

また、別の切り口では、以下にご紹介した事業性評価の方法も役に立つでしょう。

事業性評価とは何か?融資を引き出すためのフレームワークや評価シートを解説。

経営戦略

経営戦略は、分析をもとにして、経営理念実現のためにどの方向に進むべきかを示したものです。経営戦略を考えるうえで、以下の5つの質問が役に立ちます。

1.わが社の顧客は誰か?どこにいるのか?

2.顧客が本当に求めているものは何か?

3.我々の事業は何か?

4.我々の事業は将来どうなるのか?

5.我々の事業はこれでいいのか?

3か年計画

これまでに考えたことをもとに、3か年計画をまとめていきます。3か年計画は以下のような項目で成り立ちます。

1.経営目標
  • 3年後の目標を一言でまとめます。
2.数値目標
  • 売上高
  • 売上総利益
  • 経常利益
  • 自己資本比率
  • 総資本経常利益率
  • 一人当たり付加価値
経営戦略(目標達成のための手段・方策)
  • 計画の概要
  • 事業展開
  • 業態見直し
  • 新製品開発
  • 新市場開拓
  • 設備投資
  • 他社との連携
働きがいのある会社
  • 人材採用
  • 社員教育
  • 労働条件改善
  • 組織風土づくり
企業の社会的責任
  • 地域社会への貢献
  • 地球環境保全への取り組み

 

経営計画を策定する

経営計画は、理念、方針を基にした実行計画と言えます。単年度での計画を立てます。

今期の経営計画

まず、今期の経営計画を立てます。これは先述の3か年計画と同じフォーマットを使い、1年間での目標や計画を立てます。

今期の利益計画

利益計画は、会社の発展に必要な利益を目標利益と定め、それを達成するための売上高、経費の目標値を決めるものです。利益から売り上げを逆算するところがポイントです。



その他、以下の点に留意して計画を立てます。

重点予算を予め計上する

重点予算とは、目標達成に欠かせない大きな費用・投資のことを指しています。これらを予め考慮して計画を立てます。

キャッシュフロー改善対策

黒字倒産にならないように、キャッシュフロー、資金繰り改善のための対策を考えておきます。

これについては以下の記事もご参考にされてください。

キャッシュフロー改善に向けた完全チェックリスト

損益分岐点の把握

損益分岐点とは、売上と費用が等しく、利益も損失も生じない売上高のことを指します。この比率が低いほど、利益を上げやすい利益モデルと言えます。

 

今期の実施計画

3か年計画て考えた、会社の各分野の方針・計画をさらに具体化し、今期の実施計画にしていきます。例えば、以下のようなカテゴリーで考えます。

  • 販売計画
  • 生産計画
  • 設備計画
  • 新製品開発計画
  • 人材採用・教育計画
  • 労働条件改善計画

 

経営指針の浸透

最後に経営指針を浸透させていく方法を考えていきましょう。経営指針は作っただけでは意味がありません。全社員が共有し、その実現に向けて働くことで始めて意味を持ちます。以下のような手段を用いて、作った指針を浸透していきましょう。

経営指針発表会

経営指針発表会は、全社員に指針書を配布し、理解、納得してもらうために行います。同友会では、発表会において一方的に内容を伝えるのではなく、小グループ分けて、グループ討論を行うことを死傷しています。

経営指針勉強会

発表会のあと、各部門、各グループにおいて勉強会を行い、詳細の理解を深めます。

実績検討会

定期的に実績検討会を行い、数値目標の進捗状況をチェックし、未達の対策を練ります。

目標管理

指針書に書いた目標を個人目標へと落とし込んでいきます。これによって、計画を自分事として捉えられるようになります。

 

以上、経営指針の内容についてご紹介してきました。ぜひご参考にされてください。なお、仕組み経営では経営理念の策定から、計画、それを実現するための仕組みづくりまで一貫してご支援しています。詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードされてください。

 

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